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Vol.161 アジア系女性初の主演女優賞〜地球からの贈りもの〜宝石物語

By 金子倫子

アジア系女性初の主演女優賞

アメリカ元大統領が起訴されたというインパクトで、3月に起こったほかのイベントを忘れてしまいそうだが、まずは日本のWBC優勝。試合の話や、活躍した選手の話などをすればキリがないので、ここではトロフィーの話にとどめておこう。

トロフィーは、スーパーボールのトロフィーの制作も手掛けるティファニー社によるもの。同社のインスタグラムに掲載されている情報によれば、制作に4カ月半かかり、スターリングシルバーに24金のアクセントが付き、24インチの高さで25ポンド以上もする品とのこと。3月24日から28日まで東京ドームにある野球殿堂博物館で展示された。長いと7時間以上の待ち時間だったそうで、この優勝がいかに多くの人の心を掴んだかが透けて見える。

そしてこの優勝の約1週間前に、95年にわたるアカデミー賞史上初となる受賞があった。アジア系として初の主演女優賞、ミシェル・ヨー

個人的には、ジャッキー・チェンとの映画で大変危険なスタントを自らこなす頃から見ていたので、何とも感慨深い。1997年にはボンド・ガールとして抜擢され、ジェームズ・ボンドと共に戦う華やかなヒロインだったが、その後ハリウッドでの活躍は思ったほどではなかったのが残念な気もしていた。

しかしスウィートリベンジとでも言うのだろうか、主演女優賞としてのスピーチでの「誰にも『あなたのプライム(全盛期)は過ぎた』などと言わせないで」という言葉。それを体現するかのような60歳とは思えぬ若々しさと言うか、受賞した時の初々しさと言うか。ドレスはヴァージンホワイトの如く、ディオールのオートクチュールで、アイボリーのシルクオーガンザーに羽がびっしりと付いたもの。もし「天国」がドレスになったらこんな感じだろう、というようなヘブンリーなドレス。それにムサイエフというジュエラーからのジュエリーを合わせた。ジュエラーのホームページによると、イヤリングはペアシェイプのダイヤモンドが連なった計40・2カラット。

緩くウェーブのかかった豊かな髪を飾ったのは、ティアラのように見えるが、実はネックレスをヘッドピースとして纏ったもの。計119・3カラットでこれもペアシェイプのダイヤモンドがグラデーションを作るように連なる。そして極めつけは15・52カラットの大粒のセンター、その両脇に2カラットずつ配された、これもまたペアシェイプのダイヤモンドのリング。

時計はリシャール・ミルの白のベルトにダイヤモンドが豪華に盛られたもの。ほかの場面でも見たことがあるので、私物かもしれない。ミシェルは2011年より同ブランドのパートナーとしてコラボレーションをしていて、不死鳥、虎、竜などをモチーフとした個数限定販売のトゥールビヨン(大変複雑な機構を持つ時計)のデザインに関わっている。ちなみにこのブランド、高い商品は2億円などざらにするので、ミシェルの時計も身に着けたダイヤモンドの総額よりも高かったかもしれない。

私物といえば、ミシェルがヒロインの恋人の意地悪な母親役を演じた「クレイジー・リッチ!(2018)」で身につけた、正にこれぞ! と言わんばかりの緑が鮮やかな大粒エメラルドと、その両脇にダイヤモンドが配されたリングも本人の私物。監督はジャクリーン・ケネディーのエメラルドのリングのようなデザインにしようと考えていたようだが、ミシェルが「エレノア(役名)が望むのはこういうデザイン」と自ら提案したそうだ。

話を戻して、主演女優賞を取った「エブリシング・エブリウェア・オールアットワンス(2022)」。種明かしはしたくないので細かい内容は避けるが、白髪交じりの疲れた中年おばさんである主人公が「私は美しかった」と言うシーンがある。生きていれば、「若い頃は」とか「あの時違う道を選んでいたら」と過去のことを考えることがあるかも知れない。でもミシェルが「プライムが過ぎたとは言わせないで」と言ったように、自分のプライムは自分で決めるものなのだ。

80年代のアメリカに憧れを抱き、18歳で渡米。読んだエッセイに感銘を受け、宝石鑑定士の資格を取得。訳あって帰国し、現在は宝石(鉱物)の知識を生かし半導体や燃料電池などの翻訳・通訳を生業としている。