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Vol.165 日本の伝統工芸〜地球からの贈りもの〜宝石物語

By 金子倫子

日本の伝統工芸

さまざまな模様の印伝(左) と、帯紐用に編まれた組紐(右)と、*写真はイメージです。本文言及の作品ではありません

先月、あっと驚くニュースが日本中を包んだ。東京都上野にある国立科学博物館がクラウドファンディングで寄付を募ったところ、1週間で6億円を集め、当初の目標額1億円を軽々と達成したという。同館のウェブサイトによれば締め切りは11月5日で、今も着実に寄付金を増やしている。

私も多くの日本人同様、「国立」と名の付く施設が資金難に陥っていることを知り、驚いた。光熱費や原材料費の高騰で、標本などの保管が困難になったことが理由とのことだが、国からの助成金は出ないだろうか?と疑問に思った人は少なくないだろう。いずれにしろ、今回の件は、大勢の人にとってほかの文化施設に目を向けるきっかけとなったことだろう。

「赤の女王」を見たくて、前述のクラウドファンディングがスタートしたのと同時期に東京国立博物館へ赴いた。いつも特別展で力尽きていた私が、たまたま雨で館内に長く滞在したため、日本の考古展示室やアジアギャラリーもじっくり見ることに。弥生時代のガラス製のブレスレットや青銅製の指輪、勾玉などを目にして、「どうして日本は肌に直接着けるジュエリーが発展しなかったのだろう?」という気持ちが再沸騰。そんな思いをかき消すように、企画展示では紀州徳川家10代治宝の娘、豊姫の婚礼道具の数々。全てデザインが統一されていて、いかにも嫁入り道具・支度品という感じだった。

金箔や漆の技術は日本の伝統工芸のひとつであるが、この数年、筆者の日本の伝統工芸に対しての熱量が増えてきた。最近はSNSでの発信から多種多様な工芸品を目にする機会が増え、後継者問題など、当事者の声が聞けるチャンスも多くなった。さらに、デザインもモダンにアップデートされている。最近のお気に入りの中に、「印伝」がある。簡単に説明すると、鹿革に漆で模様をつけた伝統工芸。印度から伝わったから印伝らしい。唐草、亀甲、青海波などなど伝統的な柄が多かったが、今はブランドとのコラボレーションなどで、さまざまな柄の印伝製品が作られている。数カ月前に購入したのは、ICカードSuicaでおなじみ、ペンギンの顔が、いろいろな表情で並んだデザインのパスケース。これにSuicaカードを入れて改札でピッとするたび、可愛さにキュンとなる。

ほかにも、寅年の筆者は、「寅千里」と言われるトラ柄のお財布と印鑑入れを購入。鹿皮は橙と茶の中間色で、財布の漆は白で、印鑑入れは黒。トラ柄だが、鹿皮のザラッとした表面に漆の絶妙な艶感が絶妙なバランス。干支シリーズは毎年出ており、兎年の母には兎柄の小物入れと、アジサイ柄のふたつ折財布をプレゼント。毘沙門亀甲や七宝繋ぎなど、縁起担ぎの柄も沢山あるのでチェックしてみてはいかがだろう。

先日は手組の組紐製作体験もしてきた。体験の前にちょっとした講義を聞いたのだが、あまりの奥深さに「へ~」の連発であった。奈良時代に根付き、正倉院や法隆寺にも残っているとのこと。教室併設の店舗には、いくつか歴史的な復元品も展示されていた。そのひとつが、ひし形の模様が組み込まれた帯状の物にチェーンが付いており、そこから金色の涙型の装飾がいくつもぶら下がるように付けられているもの。涙型の装飾のオリジナルは私が先日訪れた東京国立博物館に展示されているらしい。組紐は経を入れる筒に巻かれたり、帯締めや刀の装飾に使用されたりと用途はさまざま。武士の作法として自ら組んだり、戦の減った江戸時代中期には武士の内職として家計を助けたりなど、歴史の中で柔軟に形を変えて日本人に寄り添ってきたようだ。

全て手染めだという絹の糸を、中央が絞られた構造をしている「玉」と呼ばれる木の玉に巻き付けて専用の台からぶら下げ、その玉を動かしながら組んでいく。単色染めもあれば、出来上がりのデザインを想像してどの辺にどの色が来るかを計算し、職人に依頼することもあるそう。

私が体験で組んだ紐はブレスレットにしてもらった。何だかハマってしまいそうな予感。久々のお教室通いの予感がする。

80年代のアメリカに憧れを抱き、18歳で渡米。読んだエッセイに感銘を受け、宝石鑑定士の資格を取得。訳あって帰国し、現在は宝石(鉱物)の知識を生かし半導体や燃料電池などの翻訳・通訳を生業としている。