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Vol.166 快挙 バービー〜地球からの贈りもの〜宝石物語〜

By 金子倫子

快挙 バービー

映画『バービー』からインスピレーションを得て発売されたバービー人形たち                                 ©Mattel, Inc.

『ハリー・ポッター』シリーズを抜き、ワーナーブラザーズ社の興行収入歴代1位に躍り出て歴史を塗り替えた、映画『バービー』。さらに『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』を上回り、*現段階で2023年に公開された映画第1位の座にも君臨。さすがと言うべきか、まさかと言うべきか。まだ観ていない方のために極力ストーリーには触れないが、筆者自身、3回ほどハンカチが必要なぐらい涙した。*2023年10月初旬時点

1959年に着せ替え人形としてデビューしたバービーの当初のメッセージ、「あなたは何にだってなれる」。女性への向かい風が強くなっている昨今、もう一度その言葉を噛み締めて奮起するときなのではと気づかされた。

映画を観る前は、バービー人形という存在に対して否定的な感情を持っていた。いわゆる女性美のステレオタイプを具現化したようで、女性軽視を促すような気がしていたのだ。

しかし映画をきっかけに、バービーを販売するマテル社のホームページを覗いてみて驚いた。彼女のフルネームはバーバラ・ミリセント・ロバーツ。1962年に自分の家を買い、85年にはCEOに就任。92年以降6回も大統領に立候補と、さまざまな設定で女性の地位向上を応援しているではないか。生みの親である同社の共同創業者、ルース・ハンドラー氏が自身の娘への願いを人形に込めたのがバービーだったのだ。映画は女性としての葛藤や哲学が全編に散りばめられていて、ポップなビジュアルとコメディータッチの印象を裏切る程に深い内容である。

ちょっとネタバレになってしまうが、映画『バービー』の世界は女性が主役で、男性は現実世界の女性的な位置づけ。いろいろな職業や役割を持つ「バービー」と違い、ただのビーチにいる人というだけの「ケン」が、現実の人間社会では男性が重要な職業に就いているのを目の当たりにし、男性の地位向上へ向けて動き出す。

チクリと社会風刺をする場面も。映画にも実在する会社として登場するマテル社の会議室で、スーツ姿の男性役員達がバービーの戦略会議をしているシーンがあるのだが、これは昔、筆者自身が経験したことを思い起こさせた。筆者が通訳として参加した某化粧品会社の役員会議では、10名弱の男性役員達が、「高価な化粧品は日本製でないと、女性は購入しないのではないか」という議論を延々としていた。役員会議にひとりも女性が居ないのも問題だが、女性向けの製品にも関わらず、中年男性のみで議論をすることの矛盾に気がつかないのだろうか、と皮肉に感じたことを思い出した。

こういった社会風刺が諸所に散りばめられ、哲学的な思考に迷い込みそうだったが、ビジュアルのポップさは単純にワクワクした。服はもとより小物まで抜かりなくバービーワールド。ピンク色の貝のネックレスや、大玉の連なったブレスレット、服の布地とお揃いのヘアバンドなど。トータルコーディネートの極み。ファッションも「はずし」がお洒落みたいな風潮があるが、あれぐらい分かりやすく「揃える」というのも逆に新鮮で試したくなった。

最も印象的だっだのは、中央にハートの薄紫の石、ピンク、黄緑、水色などの石が、シャネルマークで繋がっているネックレスだ。1995年の春夏コレクションで発表された物だとのこと。数千㌦はするらしいので、間違いなくコスチュームジュエリーだろう。一方ロサンゼルスの映画プレミアで主演のマーゴット・ロビーがまとったのは、1960年のバービーのドレスを元に作成されたスキャパレリの黒のスパンコールがびっしり付いたドレス。ピープル誌によれば、合わせたジュエリーはロレイン・シュワルツの計350カラットの4連チョーカー、計19カラットのダイヤモンドスタッズ、そして10カラットのリング。ロンドンのプレミア時は90年代のバービーのドレスを元にした、ヴィヴィアン・ウェストウッドの薄ピンクのイブニングドレス。横のトレーン(スカートの引き裾)と大きな同素材のコサージュが印象的。これには大粒パール風の3連ネックレスに、耳には同素材のシンプルなスタッズ。もちろん、両ドレスともサテンの長い手袋もセットで着けている。

男女平等・女性の地位向上の実現へはまだまだ長い道のりだが、とりあえず、ドレスアップしてガールズ・ナイトでお出かけするとしよう。

80年代のアメリカに憧れを抱き、18歳で渡米。読んだエッセイに感銘を受け、宝石鑑定士の資格を取得。訳あって帰国し、現在は宝石(鉱物)の知識を生かし半導体や燃料電池などの翻訳・通訳を生業としている。