ついに来た!
ラボグロウンダイヤモンドの台頭
By 金子倫子
やはり来たかという感じがする、プラチナ価格の上昇。この何年も1グラム5,000~5,500円程度で推移していたが、6月に入って1週間で6,600円まで跳ね上がった。大方この傾向は続かないと予想されているので、このコラムが出るころには元に戻っている可能性も十分ある。中国とアメリカのレアアース(希土類とも呼ばれる、鉱物から抽出される金属のうち、17種類の元素を一つにまとめたもの)の交渉が実際の所どうなっているのか詳しくは分からないが、やはり金だけでなくさまざまな金属は変動こそすれ、十分価値があるもの。私の記憶している限りではプラチナの方が金より高価だったので、意外としばらくはプラチナの反撃が続くかもしれない。
実はこの数年、個人的に金にばかりに目が向いていてダイヤモンドの事がおろそかになっていたのだが、気付いたらダイヤモンド市場がかなり大変なことになっていた。
AIの目まぐるしい発展のごとく、テクノロジーの進化のスピードは市場を一気に傾けていた。それがラボグロウンダイヤモンドだ。以前にも何度か取り上げているし、数年前からこの日が来るのはカウントダウン同然と思ってはいたが、ついにゼロのゼの所まで来た感じ。そんな状況になっていることになぜ気づいたのかというと、実は今この回を執筆している1週間ほど前に、NBCニュースとブルームバーグでこの話題を取り上げていたのだ。2つの番組で微妙に数字が違ったが、共通するのは、2024年の婚約指輪の半分はラボグロウンダイヤモンドだということ。2018年にはたった2㌫のシェアだったのにも関わらず、10年も経たずに50パーセント以上となった。なんと天然と人工の割合がひっくり返っていたのだ。昨年1年でも前年比、販売額で13パーセント増、数量的に6パーセント増だとか。
私が最後にラボグロウンダイヤモンドについて書いた時(2024年7月12日号掲載『サステナブルを目指して』)は、確か天然ダイヤモンド価格に対して7割ぐらいだった気がする。安いと言えば安いが、そうでもないと言えばそうでもない。それが、今やなんと天然の1割ぐらいの値まで下がっている。
この連載コラムが始まった2010年には、すでに今で言うラボグロウンダイヤモンドは存在していた。だが当時その名称にはシンセチックという言葉が使われていた。シンセチックというのは、ダイヤモンドに限らず、物理的に同じ物であり、人工か天然かが違うだけというもの。何となく見た目が似ているが、物理的に全く別物であるキュービックジルコニアやモアッサナイトとは一線を画してきた。シンセチックに関しては偽物か本物かという表現は不適当で、我が古巣のGIA(米国宝石学会)もそういった表現を避けていた。大きく動いたのは2018年にFTC(連邦取引委員会)がラボグロウンダイヤモンドも本物のダイヤモンドと認めたこと。2019年にはGIAもシンセチックという言葉の使用を停止し「ラボグロウン」で統一化。分かりやすく言うと、天然のうなぎも養殖のうなぎも、うなぎには変わりないというのと同じこと。養殖にしたら穴子になる訳ではないということ。余計分かりにくくしてしまったかな?
テクノロジーの進化で言えば、今の美しくて安価なラボグロウンダイヤモンドはCVD(化学気相蒸着)方法で生成されている。2003年に初めて研磨後でも1カラット以上の物が出来たが、2016年まではせいぜい5カラットで頭打ち。そこから一気に加速して、今年は75・55カラットのエメラルドカットに至った。このCVD方法はガスで段階的に化学反応の工程を踏み、天然ダイヤモンドには無いプロセスをとる。もう一つのHPHT(高圧高温)という方法は、シード(種)と呼ばれる炭素の小さな塊を中心に結晶を形成させるもので、ダイヤモンドが自然界で生成される環境に近い。それゆえ、安定して無色透明の不純物の含有量が低い物を造るのが困難になる。対してCVDによる生成は無色透明でほぼ不純物のない物の生成が可能。品質は天然ダイヤモンドでも全体の2パーセントに満たないほどとされる、最高品質の代名詞「タイプIIa」と同等とのこと。天然ダイヤモンドは黄色の色味の元となる窒素を含むことが多いが、この「タイプIIa」は窒素を含まず、CVDのダイヤモンドも同様だ。
FTCは認めているし、最高品質と変わらないなら、どうやって見分けるのか? その話また次回に。












