Home 食・旅・カルチャー 地球からの贈りもの~宝石物語~ 非日常品とインフレ 💎地...

非日常品とインフレ 💎地球からの贈りもの〜宝石物語〜💎

筆者:金子倫子

車のガソリンの様に、日々値段の昇降を目の当たりにするものから、気付いたら何となく上がっていたものまで。1981年の年間8.6%のインフレ率を越えてしまった、2022年6月までの過去12カ月の9.1%。2022年で見ると8.8%になる予想だが、如何に。

全体的に物の値段が上がっているのだから、ジュエリーを含む宝飾品が値上がりしても、まあ仕方がない。と、思うしかない。リーマンショック後の金の高騰時も、業界全体的に値上げ。この数年も各ブランドが独自の対応で、徐々に価格が上昇している。そしていよいよ今年、年に2回の値上げを公表するブランドも出てきてしまった。春にはヴァンクリーフ&アーペル、ハリー・ウィンストン、グラフなどを含むいくつかのブランドで10%程の値上げ、シャネルも6月に10%だが、いずれも2回目の値上げに関しては未定だそう。だがカルティエは5月の値上げに加え、7月29日にも10%の値上げを発表。一律の場合もあれば、商品の一部というところもあるので、お目当てのアイテムがある方は、各ブランドに問い合わせを。

宝飾品の値上げは、当たり前だが日用品の値上げとは全く意味が違う。一般の人であればそれ程頻度高く購入するものでもないから、そもそも相場が幾らか? 5年前の値段が幾らか?などという事は知らない人が殆どではないか。「値上げします」とニュースやSNSなどで報道されるので気づくケースが多かったと思う。消費税と同様、「上がる」と言われると購買意欲が湧いてしまうのが人の性と言うもので、駆け込み購入もあったとか。そもそも値上がりを実感出来るぐらい購入の頻度が高い人はそれだけの財のある人で、そもそも10%の値上げぐらいであーだこーだ言わないのではないか。

ただ実際は10%どころの値上げではない物もあり、いつかは欲しいなと憧れを抱いていたジュエリーがある私には結構痛手。最近はご褒美ジュエリーとして自分で購入する女性も多く、しばらく憧れてか勢いでかはそれぞれだが、いろいろと理由をつけて購入するケースも多々。友人は今年初頭、離婚して10年頑張った記念として、カルティエのトリニティを購入。宝飾品らしい宝飾品を持っていなかった彼女の初のジュエリーで、日々指を眺めているそう。私も身に着けた自分の指を想像して数年になる、憧れのシャネルの「ココクラッシュ」というシリーズの太い指輪。ダイヤモンドの付いていない、地金だけの指輪を探す事5、6年。全体的に大きくしっかりしている私の手には、指輪もそれなりのボリュームがないとバランスが悪い。20年程前は、今はもう廃番となったカルティエのヌーベルバーグというシリーズに憧れた。そして時を経て、雑誌で見た瞬間「ビビッ」と来てしまったこの指輪。シャネルのファインジュエリーは元々ココ・シャネルが1932年に発表していたが、その後下火に。シャネルの代名詞と言えるような大きなパールのコスチュームジュエリーがメインになった。ファインジュエリーの大きな再出発は1993年で約30年程経つが、代名詞となるようなデザインが無かったように思う。シャネルの愛したカメリアの花モチーフか、キルティングのデザインが登用されていたが、どれも定番の地位を築くほどではなかった。しかし、この2015年発表のココクラッシュは既にかなりの稼ぎ頭になったのではなかろうか。カルティエのトリニティーみたいに100年後も愛されているのが容易に想像できる程、一過性ではなく普遍性を感じる(褒め過ぎか?!)。

ここまで書いたら購入しなければという気になったが、実は値段がどんどん上がっているのだ。明確ではないが2、3年前の雑誌では約34万程、それが約38万になり、約43万になり、さっきウェブサイトで調べたら税込み48万9,500円なり。石が付いていないデザインなので、金の価格がダイレクトに影響する。田中貴金属によれば2019年1グラム4,900円だった金が2022年5月は7,000円。それを考えると妥当な値上げだが、痛い。でも欲しい。ああ、50万の指輪をサラっと買える女性になりたい。

80年代のアメリカに憧れを抱き、18歳で渡米。読んだエッセイに感銘を受け、宝石鑑定士の資格を取得。訳あって帰国し、現在は宝石(鉱物)の知識を生かし半導体や燃料電池などの翻訳・通訳を生業としている。