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💎過去と未来と〜地球からの贈りもの〜宝石物語 Vol.157〜

By 金子倫子

新型コロナウィルスの流行が始まってから、先の見えない漫然とした不安と急に襲ってくる大きな不安の塊に疲れ、いよいよ最近は開き直りの境地。人は死ぬときは死ぬという究極の真理にすがるしかない状況になってきた。

実はそれは、6月に始めた登山の影響も大きい。始めて半年弱だが、すでに日本百名山のうちの7つと、そのほかも含めて1ダースぐらいの山に登った。12kgのリュックを背負い8時間弱かけて3千m強の山を昇り降りした時は、達成感に満たされた。ただ、山と死は隣り合わせだと言う怖さは、毎回十分に実感するのだ。自然の恐ろしさは、地震災害が絶えることのない日本では常に身近にあるものかも知れない。しかし近年、更に今年は輪をかけて天災より人災。なぜ人はこうも争わなければならないのか、と途方に暮れてしまう。学校での銃の乱射は一向に減らず、この数カ月のユダヤ人に対する差別的コメントなども、なぜあの忌まわしい歴史から学ぼうとしないのか不思議でならない。LGBTQ関連でも11月に入ってから無差別乱射事件。それに女性にとって重要な権利が大きく50年前に遡ったのも今年。ロー対ウェイド事件は1973年1月。私は74年生まれなので、私の母世代よりも私の娘世代は、ひとつ大きな権利を失ったということだ。

暴力は誰に対しても悪だが、今年はアジア人に対する暴力や差別の急激な増加に憤りと悲しみと。特に抵抗できない高齢のアジア人が、道端でいきなり殴られたり突き飛ばされたり。何よりこのことで特に残念に思うのは、アジア人に対して暴力を振るった多くの人ら自身がのマイノリティーであるところ。自らもいろいろな差別を受けた経験があるにも関わらず、自分より弱い者にそれをぶつけることで一時の優越感を味わうのだろうか。

私が常々気を付けていることは、人種、宗教、その他諸々を理由にした差別化や権利を無視する行為は、「差別」や「権利の無視」の存在を肯定するにほかならないということだ。「ゼロコロナ対策」への抗議デモが中国で多発しているというニュース。中国の人々も権利のために政府に対して立ち上がった。ロシアだって戦争をしたがっている人は極一部。徴兵の命令が出た息子たちを無駄死にさせまいと、母親たちが署名運動を始めたのも記憶に新しい記憶に新しい。「君死にたまふことなかれ」。大切な人をみすみす死なせるようなことはしたくないのは、世界共通のはずなのだ。実際、引き裂こうとする力が勢力を増すと繋ぎとめようとする力も大きくなり、アメリカの中間選挙やNATOの結束にそれを見ることができるのがせめてもの救いだ。

全く宝石に関係ない話が続いたが、今年最後の話題は11月25日で金婚式を迎えた私の両親。数年前にガンで膀胱を全摘出した今年80歳の父は、コロナの影響もありあまり遠出をしなくなってしまった。71歳の母は未だに仲間と月に1、2回テニスをしている。仲が良いとは思えないが、50年続けばお互いの忍耐は◎だろう。

今回母の婚約指輪を久しぶりに見せてもらった。プラチナ台に控えめだがピジョンブラッドという最高級の赤い色のルビーで、その左右に控えめなダイヤがひとつずつ。質の良いルビーはピカピカというよりも、少しベルベットの様な質感と赤に少し紫が入っているのが一般的な定義。私が初めて見た宝石であり、いつかは自分の物になるとか勝手に思っていた指輪。そして私が驚いたのはその指輪の小ささ。母の指はこんなに細かったのだと感慨深かった。

元気でいて欲しいと思うが、確実に年を取ってきた両親に胸がグッとなる。先を考えていても仕方ないから、一緒に過ごせる時間がある間は、その時を大事に過ごそう。

新しい年は、人任せにして傍観してられる時代ではもう無いのだろう。一人一人が自分で考え行動する。当たり前のようだが、それが求められている。

皆さま、良いお年を!

約4年間のシアトル生活を終え、2022年5月に日本へ帰国。運動オンチのインドア派に思われがちだが、屋内にこもっているのが大の苦手。犬とお酒と音楽が友だち。愛犬と2〜3時間地元を散歩するのが日課。