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琥珀の中のDNA💎地球からの贈りもの〜宝石物語〜💎

筆者:金子倫子

トップガン・マーベリック』。言わずと知れた1986年の大ヒット映画、『トップガン』の続編が36年の時を隔て往年のファンを歓喜させた。1作目へのオマージュもチラホラ散りばめられ、何ともノスタルジックな気分にさせる。
私にとって更に思い出深いのが、1993年6月の1作目公開の『ジュラシックパーク』。その最終章が29年経ったこの夏に公開された。実は、私の渡米も1993年6月。空港に降り立った同月18日。その翌日にホストファミリーが連れて行ってくれたのが、第1作目の『ジュラシックパーク』だった。映画館一杯の人にポップコーンの香り。今でこそゆったりとしたシートだが当時はまだ席と席の間が狭く、やっとの思いで席に着いたのを覚えている。渡米のきっかけとなる程に映画好きだった私が憧れたアメリカそのものが、そこにあった。今回シリーズ最終章となる本作の目玉は、1作目の主要キャストが3名戻ってきたことだ。29年前が老けていたのか、今が若く見えるのか、両方なのか? いずれにしろ3者共、29年の年月を感じさせず若々しく味のある存在感だった。
昔話で引っ張ってしまったが、コラムのテーマに軌道修正すると……。
1作目を見た方、または原作を読んだ方は覚えているだうか。物語の中核である、そもそも恐竜をどうやって蘇らせたのかという事を。答えは、琥珀の中に閉じ込められた恐竜の血を吸った蚊から、恐竜のDNAを採取して遺伝子操作によって復活させた。
琥珀、アンバーは宝石のひとつであるが、数少ない有機鉱物(オーガニック)の宝石である。ほかの有機鉱物の宝石と言えば、真珠、サンゴ、べっ甲など。有機鉱物かそうでないかというのは、GIAの定義によると「元々生きていた(リビング)物」となる。植物も、もとは生きていたという考え方なので、木の樹脂だった琥珀も有機鉱物となる。6千5百万年〜1億2千万年ぐらいの年代の物が最も多いらしいが、最古の物は3億2千万年とされる。GIAのウェブサイトによれば、百万年以上古いと琥珀、それより新しいとコパルと呼ばれ、琥珀よりも柔らかい。色の濃淡は、元々の樹脂などの影響や硬くなるまでの期間の環境の影響もあるので、一概にどちらが良いとは言い難い。
ミャンマー琥珀博物館という施設もあり、ミャンマーで採掘された、中に虫や植物などを有する琥珀の数々が展示されているそうだ。「ドナルドと言う名のヒル」というタイトルの琥珀もあり、かなり生々しいヒルがそのの中に囚われている。
そもそも1990年初頭の「琥珀の中の虫からDNAを採取した」という発表が、恐竜を蘇らせるという夢物語の始まり。映画の影響もあって、さもそれが可能であるかの様に錯覚してしまった人は多いだろう。しかし実際はというと、何百万年前のDNAを採取することは今の所不可能だそうだ。今や一般的となったPCR検査だが、DNA採取もこのPCR検査が絡んでいる。この技法が確立され、琥珀中の虫から採取したのが恐竜のDNAだと思ってしまったのだが、その後よく検査をすると間違いだと分かった。樹脂自体やホストとなった虫のDNAや、外部からの汚染などにより、もとのDNAは破壊され、採取や複製するのは不可能だというのが今のところの結論だ。
ではどれぐらい前の物ならDNAを採取できるのか?という疑問に立ち向かっているのがボン大学。大昔の琥珀からDNA採取を試みるのではなく、何年前までなら採取可能なのかという着眼点で、現在から過去に遡っていくという実験。2〜6年前に人工的に樹脂に虫を閉じ込め、そこからDNAを採取する実験だったのだが、2020年9月に『PLOS ONE』という学術誌にて採取成功の発表をした。最後の恐竜が居た6千6百万年前まで遡るのは息の長い研究になりそうだが、AIやディープラーニングを駆使すれば、思ったよりも早く実現するかも知れない。
18歳の私が見た1作目。それから29年経ったこの夏に、じきに18歳になる娘と見たシリーズ最終章。私にとってはこの29年間は6千6百万年に匹敵するぐらい、重くそして遥かなのだ。

80年代のアメリカに憧れを抱き、18歳で渡米。読んだエッセイに感銘を受け、宝石鑑定士の資格を取得。訳あって帰国し、現在は宝石(鉱物)の知識を生かし半導体や燃料電池などの翻訳・通訳を生業としている。