Home コラム 一石 マリナーズ社長辞任

マリナーズ社長辞任

 シアトル・マリナーズが春季キャンプでシーズンへ向けて準備を進める最中の出来事だった。球団社長でCEOのケビン・マザー氏が22日、ベルビュー・ブレックファースト・ロータリークラブで講演した際の動画がソーシャルメディアで広まったことを受けて辞任した。内部事情を漏らし、特定選手らについて不適切な発言を繰り返したことが発覚し、猛烈な批判が起きていた。

 映像を見て気になったのが端々から感じられるトップ目線の発言だった。マリナーズには1996年に入り、役職は財務や球場運営を担っていたのか、金銭面に関する発言が特に嫌味を帯びていた。

 特命コーチの岩隈久志氏も一例に挙げられた。「素晴らしい人間だが、英語がひどかった」と言えば、通訳費などに発言が及び、「(通訳費の話をしたら)彼の英語が突然上達した」といったものまで。岩隈氏はその後、現役時代の通訳は球団職員だったと訂正するなどメッセージを発信したが、新たな使命を持ってチームに復帰したばかりだけに気の毒だった。

 2010年、日系コミュニティーがセーフコフィールド(当時)であるイベントを開いた。その時、マリナーズ側のゲストとして出席したのが、当時上級副社長だったマザー氏だった。

 あいさつを終え、足早にイベント会場を離れた後ろ姿が、なぜか記憶に強く焼き付いている。その年を前後して、コミュニティーとマリナーズの関係に微妙なずれを実感したからかもしれない。あくまで私感だが、財務面の重役ということで、これまでコミュニティー行事に参加してきたマリナーズ関係者と何か違う雰囲気を感じた。

 ジョン・スタントン会長によると、マリナーズは現在まで23年連続で日本選手が所属しているという。海外とのつながり、文化理解の部分は球団の自負するところだろう。それでも、マザー前社長の発言が出るような背景がどこかにくすぶっていたとすれば、残念極まりない。

 何より再建を目指し、明るい話題が増えてきた矢先だった。チームの士気に影響しないよう願うばかり。選手にまったく非はない。長い低迷のトンネルを抜けるため、結束の力としてほしい。

(佐々木 志峰)

オレゴン大学でジャーナリズムを学んだ後、2005年に北米報知入社。2010年から2017年にかけて北米報知編集長を務める。現在も北米報知へ「一石」執筆を続ける。