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郷愁の景色〜一石

By 佐々木 志峰

桜の季節到来。タコマ方面に桜鑑賞に出かけてみた。市内北西の端にあるポイント・ディファイアンス公園内の日本庭園や、ほか地元公園の名所もあれば、並木道もあることが分かった。実際に見に行った場所は、大きな1本が開花を迎え、しだれ桜もきれいに満開となっていた。写真に収める訪問者もいたが、多くはまだ花を咲かす前。少し時期が早かったようだ。

ポイント・ディファイアンスの公園内にはパゴダと呼ばれる建物がある。20世紀末にストリートカーの駅が完成し、利用者が増えたため1914年に日本の建築からイメージを得た駅舎が建てられた。桜が満開となれば雰囲気が出るにちがいない。

少し離れて、海を見下ろす丘の住宅街にも桜は点在する。空と海の青色や新緑の木々、そして桜色のコントラストが素晴らしい。まだ雪を多く残すレニア山はシアトルからよりも近くに見えるため、その雄大さがよく伝わる。その昔、日系移民が「タコマ富士」と呼んでいたものだ。

ふと懐かしい日系史に思いを抱いたのは、先日の出張の影響があった。

米本土でワシントン州と正反対に位置するフロリダ州。仕事の関係で車で走り回ることになった。北から徐々にフリーウェイを下り、南のマイアミに近づいてくると、標識に「ヤマトロード」というサインが出てくる。ボカラトンという街を東西に約9.5マイルを走る州道794号で、大きな通りだ。

この地は20世紀前半に日系移民の入植地としてつくられた農村「ヤマト(大和)コロニー」があったことで知られている。そこに入植した一人、京都府出身の森上助次が土地を寄贈して開設されたモリカミ(森上)博物館・日本庭園もこの農村の近くにあるが、地域の開発が進む中で1世紀前の面影などほとんど残っていないだろう。

あえて言うのであれば、州東部と西部を横断する道路から見えた景色が、古き時代を思い起こさせるだろうか。シアトルのような起伏もなく、平原や湿地、そして農地が広がる道が真っすぐに延びる。その先に赤々とした夕日が沈んでいく。100年前に農地で働く移民たちは、これを見て郷愁の思いを抱いたのだろうか。日本と大きく異なる情景を目に、車を走らせながらふと考えを巡らせていた。