By 金子倫子
多様性の意味
昨今よく使われる「多様性」という言葉を見聞きするたび、金子みすゞの代表作の一節、「みんなちがって、みんないい」が思い浮かぶ。この半世紀でゆっくりと、しかし確実に広がりつつあった多様性を受け入れていく社会が、この数年逆の方向に向かっているように思われて仕方がない。
今回は、最近起こったLGBTQ当事者が自ら命をたつという悲しいニュースから考えた、奥が深い宝石界の多様さに関してお話ししたい。
7月に亡くなった日本のタレント。メディアで注目され始めた頃は男性で、女性と結婚し子どもを授かるも、その後離婚。SNSなどでは新しい家族の形として、その後も引き続き親子3人で過ごす姿を発信していたそうだ。彼は離婚後、とても女性的になった姿を公の場で披露するようになった。芸能活動以外でも起業するなど、その活動の場を広げていたにも関わらず、人生の幕を自ら27年という短さで降ろした。原因は今のところ憶測の域を出ないが、彼のこの選択に対しての誹謗中傷はかなり酷いものだったようだ。
LGBTQのシンボルと言えば、虹色。これは1978年に初登場して、当時は8色だったそうだ。それが翌年には6色の現行の色味に。それぞれの色が意味を持っているのだが、その意味を精査して8色から6色になったそうだ。
色の3要素である、色相、明度、彩度。これらの要素の掛け合わせで無限の色合いが出来る。宝石も、同じ宝石でありながら色のバリエーションがある方が多数派。たとえばダイヤモンド、ガーネット、クオーツ、コランダムなど、色だけでなく、透明性や見た目の特徴なども全く違うのに同種とされるものも多々。それでは、何を基準に分類されているかと言うと、結晶構造と化学組成による。例を挙げると、ダイヤモンドは立方晶系の炭素というのが定義。無色から黒まで、微妙な色合いを含めたらそれこそ無限にバリエーションがあるが、ベースは同じである。それでは色味のあるものと無色では何が違うのか?
ダイヤモンドは99・95%炭素で構成されており、0・05%のトレース要素というほかの元素が混ざる事で色味が変わる。最も一般的な黄色味は窒素で青味はホウ素。これらが炭素に代わって結晶構造に入り、吸収スペクトルが変わることによって色味が決まる。ピンクダイヤモンドのうち99・5%は、外力による結晶構造の歪による吸収スペクトルの変化で、ピンク色が生み出される。ブラックダイヤモンドは少し違い、結晶構造によるものではなく、単純にダイヤモンド内の不純物によって黒く見える。
ほかの例としてはサファイア。定義は六方晶系の酸化アルミニウム。サファイアは青しかないのでは?と思った方は、本コラム、「サファイアの秘密」 (2017年5月掲載)回を読んでいただければと思う。話を戻すと、もし「サファイア」とシンプルに呼べば、色は青。別の色味だった場合はファンシー〇〇サファイア(〇〇は色名)というのが本来のルールである。しかし知らないと騙された気分になるぐらいの事実は、ルビーとサファイアは「コランダム」という種類の宝石であり、学術的には同一の石であるということ。サファイアの中で赤い物をルビーと呼ぶのだ。コランダムは色味だけでなく、スターと呼ばれる星彩効果が見られるものや、自然光と蛍光下で見た目の色が変わるものなど。無色透明のカットされたサファイアと、黒のスターサファイアなど比べようものなら、どうしてこれが同じコランダムと分類される宝石なのだろう?と思わずにはいられないだろう。
人体は約30億塩基で構成されているとされるが、人種諸々の垣根を越えて99・9%は同じだそうだ。同種の宝石ですらかなりの多様性を含む。もし全部が全部一緒、宝石が1種類しかなければ何の面白みもない。多様性があるからこそ、人はそれぞれの宝石に美しさと価値を見出すのではないだろうか。
自分も受け入れられたいと願うのであれば、まず自分と違う物を受け入れる事から始める必要があると思うのだ。