Home 食・旅・カルチャー 地球からの贈りもの~宝石物語~ クオーツ時計の躍進

クオーツ時計の躍進

最近AIに関する著書やテレビなどの特集がグッと目に付くようになった。AIの台頭により人間から奪われる仕事など、ネガティブなトーンが強い気がする。科学とはすごい勢いで発展しており、クオーツ時計の発展も思いもよらない方向に及んでいる。

今回はクオーツ時計の生みの親である諏訪精工舎や、クオーツ時計から進化した技術についてご紹介しよう。時計と言えば機械式、人間の英知を詰めこまれた小さな円いものだった。それが低価格で正確な時を刻むクオーツ時計の台頭で、時計を取り巻く環境が180度変わってしまった。前回お話ししたように、クオーツ時計の原理としては、1秒で3万2,768回振動するというクオーツ(水晶)の性質を使い、その3万2,768回の振動の動力を針を1動かす動力に変えるというもの。今ひとつ理解するのが難しいのだが、まあそれが原理ということでご承知いただきたい。機械式とクオー ツの違いは見た目にも明確で、機械式の秒針は数字などのインデックスの間を滑るようにスムーズに動いていく。しかしクオーツ時計は、カチッカチッとインデックスの間をジャンプする。皆さんも身近にある時計(デジタル以外)を観察していただきたい。意外なところで機械式の時計があるかもしれない。

時計の改革をもたらしたクオーツ時計の大衆化。これの立役者である諏訪精工舎は現セイコーエプソン社である。セイコーグループの中核のひとつとして、今に至るまでプリンターやデジタルカメラなどクオーツ時計からさらなる発展を遂げている。セイコーの大元である服部時計店は企画やマーケティングなどを中心に。精工舎は製造・開発部門を中心としたそれぞれ専門化を図り、会社の両輪となった。その後の会社形態の変化はここでは省くが、第二次大戦の終戦の数年前に長野県の諏訪市に疎開してから、精密機械製造の中心となっていった。諏訪市の近郊を含めた一 帯に「東洋のスイス」というあだ名が付くくらい、日本における精密機械の聖地となった。クオーツ時計の原動力である振動。純度ほぼ100%でないと正確な1秒あた り3万2,768回の振動にはならず、正確な1秒が刻めない。そこで、より正確さを追求するために人工的に造られたクオーツを使用していることは前回でもお話ししたとおり。この人工クオーツの状態をさらに進化させたものが携帯電話、GPS、PC、その他今やほとんどの機械という機械に入っている。ICチップ (半導体)と言えばもっとわかりやすいだろうか。それらの中にはウエハ(Wafer)という、クオーツの元であるシリコン(ケイ素)の単結晶からできた部品が入っている。単結晶と多結晶の違いはというと、もちろん1つか多数かということ。多結晶は結晶同士の間に隙間があり、その部分がもろくなる。それとは逆に単結晶はどんなに大きくなろうが1つの結晶なので隙間がない。単結晶はどの方向からでも同じ性質という特徴もある。

ウエハを造るとき、シリコンを溶解炉に入れて、種となるクオーツを入れ、それを中心に溶けたシリコンが1つの大きな結晶を作り出す。大きいものだと長さ1メートル直径5、60センチメートルぐらいの単結晶ができる。それをダイヤモンドブレードでスライスして薄くて円いウエハとなる。それをまた小さく切り、ICチップに埋め込む。その小さなチップがさまざまな機械の頭脳となるのだ。いちばん小さいものだと1ミリメートル四方弱。1センチメー トルの間違いではない。この小ささでも、ウエハを造る設備を整えた施設建設に現在だと100億ドル程かかるとか。よってウエハを造ることのできる企業は世界でも限られたものとなっている。そのうちのひとつが、セイコーインスツル(4月より名称変更でエスアイアイ・セミコンダクタ)でセイコーグループのひとつである。

目まぐるしい勢いで発展する業界だが、時計業界に改革をもたらしたセイコーの精神で、これからも世界で活躍して欲し い。

(金子倫子)

80年代のアメリカに憧れを抱き、18歳で渡米。読んだエッセイに感銘を受け、宝石鑑定士の資格を取得。訳あって帰国し、現在は宝石(鉱物)の知識を生かし半導体や燃料電池などの翻訳・通訳を生業としている。