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ジョセフィーヌとオルタンス

平成最後の夏が終わった。ちょっと前まで天皇の生前退位に関しては日本の歴史を掘り下げ、様々な議論が繰り広げられた。一時はかなり混沌としたが、今やそんな議論があった事も思い出すのが難しいぐらい静かな平成最後の夏であった。

女性天皇の賛否にも及んだ日本の皇室問題。再び脚光を浴びたのは、未来の天皇である12歳の悠仁さまの、お忍びの槍ヶ岳登頂の報道。紀子さまの帝王学教育の一環とも言われているが、未来の天皇の母となる紀子さまの迫力は近年目を見張るものがある。

本題に戻り、今回もナポレオンの寵愛を受けショーメのミューズであったジョセフィーヌについて。ナポレオンとの間に子供を授からなかった事もあり(彼女の浮気癖も大きいが)離縁に至った二人だが、離縁させられた可哀想な女性と思うのは少し待ってほしい。ギロチンに消えた元夫との間に生まれたオルタンスという娘はナポレオンの弟の妻となり、息子はナポレオン3世となった。正妻という立場は意外に脆く、側室や愛人等、常にその立場を狙うものは数多といる。その中で最も有効なのは、やはり世継ぎを産むこと。確かにナポレオンとの間に子供は出来なかった。しかしジョセフィーヌは自身の産んだ子供を上手く使い、離縁させられた後もそれなりの地位を守ったのだ。

ナポレオンの妻というアイデンティーが先行するが、男に翻弄されることなく、したたかに自身で道を切り開いた女性と言えるのではないか。

ショーメでは、ジョセフィーヌ・コレクションが展開されている。エグレットと呼ばれる、宝石の土台に鳥の羽を刺したようなヘッドドレスをモチーフにしたリングやブレスレット。戴冠式で身に着けたティアラがモチーフとなったもの。それはティアラを指輪サイズに小さくし、尖ったほうが下側に向いたペアシェイプの宝石が中心に鎮座しているような指輪。実際、中央の宝石がラウンドやプリンセスカットのダイヤモンドのバージョンもあるが、ペアシェイプが最も一般的。ダイヤモンドだけではなくサファイアバージョンもある。アーム部分はバリエーションが揃っており、小さめのダイヤが並んだシンプルなバンドタイプのものから、数個のダイヤのバブルが散らばめられたようなものなど、まさしく小さなティアラ。ただお値段も小さなティアラと言っても過言でなく、1万ドル前後か
らという感じなので敷居は高い。もちろん中央の宝石のサイズとグレードによって上限は際限ない。

このシリーズは少しⅤ字型になっており、逆にして身に着けると中央が少し下に垂れ下がり、指を細く長く見せてくれる効果もある。しなやかにしたたかに時代を生き抜いたジョセフィーヌの様な、気高さのあるジュエリーである。

実はショーメ、娘のオルタンスをモチーフにしたシリーズも出している。オルタンシア=アジサイだそうで、アジサイと言えば梅雨時の6月という日本とは違い、フランスでは8月から9月ぐらいが見頃だそうだ。

ショーメ展では、ジョセフィーヌが身に着けた、アジサイをそのままダイヤモンドにした様ようブローチもあったが、21世紀のオルタンシアはもっとデザイン性の髙いものになっている。小さな花々がこんもりと塊を作っているわけではないのに、アジサイだと分かるのはどうしてだろう。小さな花が踊るように配されている。色味は本物のアジサイの如く、ピンク系とブルー系と同系色の宝石で彩られる。小さいダイヤモンドが敷き詰められた、ひし形の角を丸くしたような4枚の花びらは共通。ブルー系はその中央にサファイアが配されていたり、乳白色に少しだけ青みを帯びたようなカルセドニーの花びらや地金はブルー系を引き立てるホワイトゴールド。ピンク系はサファイアの代わりにピン
クトルマリンで、ほんのり桜色のオパールの花びらだったり地金は温かみのあるイェローゴールド。

強さが全面に出ているジョセフィーヌと柔らかさが特徴のオルタンシアの二つのシリーズ。しかし激動の時代をしたたかに生き抜いた母娘のスピリットをそこに見ることが出来る。

(金子 倫子)

80年代のアメリカに憧れを抱き、18歳で渡米。読んだエッセイに感銘を受け、宝石鑑定士の資格を取得。訳あって帰国し、現在は宝石(鉱物)の知識を生かし半導体や燃料電池などの翻訳・通訳を生業としている。