Home 食・旅・カルチャー 地球からの贈りもの~宝石物語~ Vol.163 兄弟の隔た...

Vol.163 兄弟の隔たり〜地球からの贈りもの〜宝石物語

By 金子倫子

兄弟の隔たり

兄弟同士のライバル意識、もしくは対抗意識と呼ぶべきか。旧約聖書の「カインとアベル」にもあるように、人の性と言っても良い、人間の本質的なものなのかもしれない。

英国の次期国王ウィリアム王子と、今年1月に「スペア」という自伝を出版したハリー王子。母を亡くし、助け合う兄弟のイメージが強かったが、後継者とそうでない者との隔たりは、生まれた時から大きく存在していたようである。

ロイヤルファミリーではないが、アメリカのクシュナー兄弟の生き方の違いも興味深い。兄はジャレッドで、弟はジョシュア。裕福なクシュナー一族の出だが、不動産業などで財を成した兄弟の父親は、脱税や違法献金などの罪で2年の実刑を受け、2020年にトランプ元大統領による恩赦を受けている。

恩赦の大きな要因であろう長男のジャレッドは、トランプ元大統領の娘であるイバンカと2009年に結婚し娘婿にあたる。父親が実刑を受けた時に事業を引き継ぎ、不動産業に加えてニューヨーク・オブザーバーを買収したりと、ファミリービジネスを拡大。そして義父が大統領になると大統領上級顧問となり、トランプ政権の黒幕とも言われるように。それが今や、トランプ政権の終了後にサウジアラビアから受けた20億ドルのファンドについての追及を受けているし、上級顧問としての在職中の金銭や政治的疑惑も後をたたない。

弟のジョシュアは大学生の頃に起業し、実業家であり投資家だ。兄の方が何かと話題に上りやすいが、実は投資家としての実績を積んでおり、フォーブス誌によれば、2022年に一族で初のビリオネアになった。

ジャレッドの結婚から9年後の2018年に結婚した弟のジョシュア。お相手は2012年から交際していたとされる、スーパーモデルのカーリー・クロス。14歳でモデルデビューした後は、数々の雑誌の表紙を飾っている。カーリーはモデルの傍らコンピューターのコーディングを学び、2015年に13~18歳の女子限定のコーディングの夏のプログラムを開催。コンピューターサイエンス業界で女性が活躍出来るようにとプログラムを拡大し、2018年にはフォーブズ誌の「30アンダー30」にも選出された。

カーリー自身は2016年の大統領選でもヒラリー・クリントンをサポート。カーリーとジョシュアは銃規制のデモに参加する姿も見られている民主党支持であり、トランプ元大統領の共和党政権下でどっぷりと甘い蜜を吸ったと追及を受けるジャレッドとは対極。

生き方が大きく変わったように見えるこの兄弟だが、興味深いのは彼らがそれぞれの相手に贈った婚約指輪。イギリスのタブロイド紙デイリー・エクスプレスによると、兄ジャレッドが贈った婚約指輪はプラチナと思われるアーム部分に小さなダイヤが敷き詰められ、5・22カラットでDカラーのフローレスとされるクッションカットのダイヤモンドを使用したもの。そして何と、弟ジョシュアがカーリーに贈った7カラット程と推定される指輪は、兄が贈った物と極めて似ているデザインなのだ。素人がパッと見た限りでは、同じデザインだと思うだろう。よくよく見てみると、兄が贈った指輪はU字型の台座と爪にもダイヤモンドがあしらわれており、弟が贈ったシンプルな爪の指輪と違うと言えば違う。ただ大粒のクッションカットに小さなダイヤモンドが配された細いアームのデザインはあまりにも似ている。

過去に何度も書いてきたが、ダイヤモンドは大きさだけでその価値が図れるものではない。弟が贈ったダイヤの方が大きいと推定されるが、グレードによってはどちらの価格が高いのかは分からない。
単純に面白いのは、お互いの結婚した時期も相手も違い、ダイヤモンドは形もデザインも多種多様な中、同じような指輪を選んだ弟の心理。潜在的なライバル心からなのか、単純に相手の好みに合わせただけなのか。兄弟姉妹の心理とは古来より謎のままである。

80年代のアメリカに憧れを抱き、18歳で渡米。読んだエッセイに感銘を受け、宝石鑑定士の資格を取得。訳あって帰国し、現在は宝石(鉱物)の知識を生かし半導体や燃料電池などの翻訳・通訳を生業としている。