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地球からの贈りもの ~宝石物語84~

大統領選と色

歴史が作られた。ヒラリー・クリントン氏が正式に、民主党より大統領候補に任命された。8年前、オバマ大統領が候補だった頃も歴史が塗り替えられる瞬間を心待ちに選挙を見守ったのを思い出す。

ハリウッド女優の生きる伝説とも言えるメリル・ストリープが民主党のナショナルコンベンションで披露したスピーチ。メリルの興奮と感動が聴く側にも痛い程伝わってきた。会場の聴衆に「あなたたちが歴史を変えたのよ。そしてまた11月にも新たな歴史がつくられる」と呼びかけた。8年前も、「女性の大統領が先か、黒人の大統領が先か」という議論がなされ、結果はご存知のとおり。今回もまた歴史が作られるのか。このコラムでは政治的な話は程ほどにして、この選挙を別の視点から見る事にしよう。

以前、大統領候補の妻の、選挙運動中における服装や着けるジュエリーについて書いたことがある。今回は大統領候補の片方が女性なので、妻としてのサポート役ではなく、主役としての着こなしは興味深い。それ以前に、選挙での色の使い方を分析してみよう。

まず、アメリカの国旗に使われる「赤・白・青」。民主党と共和党、双方のマスコットにもこの色が使われている。しかし民主党=青、共和党=赤というイメージがあるが、それはどこから来たのか。

実は1976年、カラーのテレビ放送を最初に行ったNBCは民主党のカーターは赤、共和党のフォードは青、開票ごとにどちらの支持か確定すると、アメリカの地図をその様に色分けした。今とは逆なのだ。ただその後しばらく混沌とした時代が来る。レーガン時にはNBCとCBSは共和党が勝った州は青で、民主党なら赤く染めた。しかし、ABCはその逆のパターンで染めた。チャンネルを行き来する人には混乱を招いた。それが統一されたのが2002年。ブッシュ支持の州を「リパブリカン・ステイト」と言わず「レッド・ステイト」と呼んだ。そこから各放送局でも統一されるようになったというのだ。

色というのは視覚に訴えるだけあり、その効果はかなりサブリミナル。今回の双方の党大会での赤と青に注目すると、違ったものが見えてくる。トランプ候補は基本赤系のネクタイなのだが、オバマ大統領夫人のスピーチを盗作したと話題となった、妻メラニアのスピーチの時は、青のネクタイ。そしてメラニア自身は上下真っ白のスカートスーツ。クリントン候補が正式に立候補者として推薦された時のスピーチ。紹介したのは娘であるチェルシーだったが、チェルシーは真っ赤なワンピースで夫で元大統領のビルも赤のネクタイ。正式な候補者としてスピーチしたクリントン候補は上下真っ白のパンツスーツ。それ以前には青の上下も少なくなかったが、白装束というかバージンホワイトというか、歴史を塗り替えたその瞬間は上下白で挑んだ。

冒頭で紹介したメリル・ストリープはアメリカの国旗モチーフのシャツ姿で特に青を強調していなかった。娘のチェルシーとお揃いで赤だったビルも、自分がスピーチした時には青のネクタイ。オバマ大統領もグレーがかった青のネクタイだったし、大統領夫人は目の覚めるような、上半身がフィットして、スカートはフレアになった極上のサファイアの様な青のワンピース姿だった。

世界で3番目の富豪で投資の神様とも言えるウォーレン・バフェット氏も先日クリントン候補を表明し、その時のスピーチは青いネクタイ。

以前、選挙放送時の無意識の意識、ニュースアンカーがサブ候補者のインタビューで何回うなずくかが視聴者に多大な影響を与えるサブリミナル効果について読んだことがある。色のマジックも同じような効果がある。こう考えると、チェルシー・クリントンは大きな舞台では青のドレスが良かったのだろうか。

(倫子)

80年代のアメリカに憧れを抱き、18歳で渡米。読んだエッセイに感銘を受け、宝石鑑定士の資格を取得。訳あって帰国し、現在は宝石(鉱物)の知識を生かし半導体や燃料電池などの翻訳・通訳を生業としている。