Home 食・旅・カルチャー 地球からの贈りもの~宝石物語~ ママラと私たちの一票

ママラと私たちの一票

安倍政権が突如として終わりをつげ、これから秋冬にかけていよいよコロナとの戦いが本番を迎える。アメリカの大統領選挙も間近。個人的には米国初の女性副大統領の誕生を楽しみにしている。いずれにしろ、一人一人の一票が世の中を変えるという事を信じて迎えるこの秋である。

「ママラ」。副大統領と言う肩書も大切だが、夫の連れ子から呼ばれるこの肩書が一番だと言った副大統領候補のカマラ・ハリス。インド系移民の母とジャマイカ系移民の父を持つ、美貌の元カリフォルニア州検事総長であり上院議員である。このコラムでも女性政治家とジュエリーの話題は何度となく出してきた。オルブライト元国務長官のブローチによる外交戦略や、ジャクリーン・ケネディーの有名な3連パールは実はコスチュームジュエリーだったとか。女性政治家の、嫌でも気の強さが全面に出てくる立場には、パールが特効薬となるとか。

カマラは上院議員時代から、パールの効用をとてもよく分かっていた人と言える。定番の白いパールは、粒が揃っている2連や大小のパールが連なったものなど、いくつか使い分けている。それと同様に、シンプルな一連のネックレスと一粒ピアスというブラックパールのセットを身にまとう頻度も多い。ダークカラーのジャケットに合わせるのが定番だが、有機性ジュエリーであるパールがまろやかさを添えて、その威圧感を緩和している。また、イベントなどで大粒のゴールデンパールの一連ネックレス華やかに纏う姿も見受けられるので、TPOを使い分けるパール使い上級者だ。

バイデン氏に指名された時のパールのセットは、民主党より正式な使命を受けた時のワイン色のスーツに同系色のインナーの装い時にも身に着けていた。このネックレス、二連に見えるのだが、二連の長さのバランスが微妙に変わるところを考えると、長い一連を二重にしているのかも知れない。カマラ副大統領候補のパールはオルブライト元国務長官のブローチに匹敵するぐらい、女性政治家としての戦略かもしれない。民主党の大統領予備選争いが始まった頃より、3、4カラットはあるであろう立爪のダイヤの指輪が左手薬指に見られなくなってきた。最近はバンドタイプの結婚指輪のみとなっている。女性政治家が大粒のダイヤモンドをキラキラさせていたら、税金を納めている大衆は何となく面白くない。それが高収入のパートナーからの贈り物だとしてもだ。そういった大衆心理を逆撫でする事のないよう、という戦略のように思う。一方、右手薬指にはカボション(カット面がなく、飴玉のようにスムーズな表面)のサファイアと思われる青い石が中央で、左右にダイヤが配されたリングが輝く。それに母方のインド系女性の文化を受け継ぐかのように、右手にはゴールドのバングルやブレスレットを3,4本重ね付けしている。

戦略的ジュエリー使いは、民主党の党大会での、ミッシェル・オバマ前大統領夫人のスピーチ時のネックレスも然り。VOTEのアルファベットが間隔をあけて並んだゴールドのネックレスはスピーチ後に大きな話題となった。元々は好きなアルファベット(名前など)で作る、カリフォルニアにあるジュエラーによるカスタムメイドのネックレスだそうだ。このスピーチの後に約300㌦でウェブサイトで販売開始となったそうだ。ミッシェルは触れる事も口にすることもなかったが、首から下がるVOTEの文字は何より雄弁だった。

カマラ候補はトランプ陣営にとっては脅威なのだろう。トランプ氏のシニアアドバイザーのジェナ・エリスが、カマラの話し方がマージ・シンプソンに似ていると揶揄した。それに対してマージが「通常は政治には関わらないのだがノ」と前置きして異例の反論。それを見ていて、話し方はともかく、マージも大粒の朱色の珠が連なったネックレスをしている。女性たちよ、この際だからオシャレもパワーも手にしてしまおう、夫々の貴重な一票と共に。

80年代のアメリカに憧れを抱き、18歳で渡米。読んだエッセイに感銘を受け、宝石鑑定士の資格を取得。訳あって帰国し、現在は宝石(鉱物)の知識を生かし半導体や燃料電池などの翻訳・通訳を生業としている。