Home 食・旅・カルチャー 地球からの贈りもの~宝石物語~ なんのためのダイヤモンド

なんのためのダイヤモンド

2010年10月20日。覚えやすいこの日が、この宝石物語の初連載だった。10年目という年月にわたって連載し、読んできていただいた読者には感謝のみだ。2010年のニュースを調べてみた。探査機「はやぶさ」が日本に帰還、犠牲者16万人とも言われるハイチ地震、チリ炭鉱からの約70日振りの救出劇など。英国のウィリアム王子の婚約発表も10年前。連続テレビ小説は「ゲゲゲの女房」とあり、子育てしながら毎日見ていたのを思い出した。あっという間の様な遠い昔のような。

この数か月にわたって、合成(シンセティック)ダイヤモンドについて書いた。環境という意味で考えれば、500メートルも掘り下げてダイヤモンドを採掘するより、シンセティックに代替した方が地球には良いのだろう。私たち人間は、ダイヤモンドに何を求めているのだろう?美しさ、権力の誇示、財産としての価値。合成ダイヤモンドの市場がいよいよ本格化する今、私自身ダイヤモンドに何を求めているのだろうかと改めて考えた。前にも書いたが、「宝石はポケットに収まるミリオンダラー」だと思っている。ミリオンダラーの宝石は買えないが、多少なりとも金目の物と思って少しずつダイヤモンドを買い足している。それを考えると、自分は少なからず資産という意味合いでダイヤモンドを買っているようだ。

そして、美しさ。家事をしたり、パソコンなどで手を使う時は、ふとした瞬間に輝きを放つダイヤモンドに見とれる。ピアスは自分では見れないが、鏡で見た時や人の視線がグッと自分の耳元にフォーカスされるのを見た瞬間などは、「輝いてるな」とほくそ笑む。

最後に、やはりロマンだろう。気の遠くなるほどの昔から、気の遠くなる時間をかけて、火山活動の高圧・高熱に耐えてその強さと美しさを身に付けたダイヤモンド。それに思いを馳せて、この輝く物体を見つめる。

この3つの理由を踏まえて、合成ダイヤで満たされないものは? まず、1年程でラボで育ってしまう原石に地球のロマンを見ることは出来ない。しかし、美しさという意味では、天然も合成も科学的には同じだからシンセティックでも問題ない。おそらく、合成ダイヤで得ることが難しいのは資産価値だろう。前回でお話しした、デビアス社が立ち上げた合成ダイヤモンド専用のサイトであるライトボックス。2020年からは、オレゴンの工場で年に50万カラットの生産とも言われるデビアス社の合成ダイヤモンド。これを踏まえて、業界もマーケットもどうなってしまうか様子を伺っている気配。面白いのは、デビアス社によるライトボックスからジュエリー購入した人へのアンケート結果だ。44%は、合成ダイヤモンドを聞いたことが無いと答え、37%は購入したものが偽物の模造ダイヤだと思っていたそう。78%の人は合成ダイヤモンドに1000ドル以上は出さないと答え、24~35歳の68%は自分へのプレゼントとして購入したそう。

販売された89%は0.5カラットだそうで、うち51%が無色、27%がピンク、22%が水色との結果。売れている物の殆どが、0.5カラットで無色と言うのは、やはり本物のダイヤモンドに見えるという理由なのだろう。

合成が広まっても、天然ダイヤモンドの価値は下がらない、むしろ上がるだろうというのが大方の予想だ。宝石の定義の内の1つが「希少性が高い」ということ。天然でサイズも大きく、色が付いた物などは特にその価値を保つだろう。

環境破壊を考えれば、合成ダイヤモンドの方が遥かに地球に優しいのだろう。私も、普通は買えないピンクダイヤモンドは合成ダイヤモンドで楽しむのも良いかもと思うのである。

80年代のアメリカに憧れを抱き、18歳で渡米。読んだエッセイに感銘を受け、宝石鑑定士の資格を取得。訳あって帰国し、現在は宝石(鉱物)の知識を生かし半導体や燃料電池などの翻訳・通訳を生業としている。