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ありがとう、エルサ・ペレッティ〜地球からの贈りもの

先月、ティファニーの伝説ジュエリーデザイナーであるエルサ・ペレッティがその生涯の幕を閉じた。高齢だったので、この時が来るだろうというのは覚悟はしていたが、それでも大きな喪失感を禁じえない。

私もペレッティのジュエリーをいくつか所有しているが、一番のお気に入りは、代表的なデザインであるオープンハート、ビーン、エターナルサークル、ティアドロップ、ヒトデのチャームが付いたブレスレット。ペレッティの独創的なデザインの異なるチャームが、5つもついているものだ。リーマンショック後のゴールド高騰で購入のハードルが上がっていた頃だが、大きな覚悟で購入した。購入後にカスタマイズもした。フルハートのチャームブレスレットを購入してチャームだけを取り、5つチャームの付いているブレスレットに追加加工してもらったのだった。だから、世界に一つの私だけのオリジナルになっている。

ペレッティは、最も知名度のあるジュエリーデザイナーと言って過言でないだろう。彼女の代表作であるオープンハートとエルサ・ペレッティの名は、ほぼセットで人々の記憶に残っているだろう。これは極めて稀だと思う。

ティファニー以外のブランドにも、代名詞となるようなジュエリーがある。例えばカルティエなら、トリニティーリングとラブブレスレット。トリニティーリングは、フランスの詩人であるジャン・コクトーがカルティエ3代目であるルイ・カルティエに「まだ存在していないジュエリーを」と依頼し、ルイのデザインで1929年に発表。1969年に発表されたラブブレスレットは、アルド・チプロという人がデザインしたもの。ヴァンクリーフならば、四つ葉のクローバーをモチーフにしたアルハンブラだろう。創業者の甥であるジャック・アーペルが「幸運になるには、幸運を信じる必要がある」と四つ葉のクローバーのコンセプトを愛でたことが1968年に発表されたアルハンブラの誕生秘話になっているが、デザイン自体が誰のものかはっきりしていない。

ここまで来てお気づきだろう。ジュエリー自体は頭に浮かんでも、「そのデザイナーは?」と聞かれても、まず名前が浮かばないのである。デザイナーをあえて表に出さない方針のブランドもあるので、公平な比較はできない。それでもペレッティがハウスホールドネームになったのは、それまでのジュエリーとは違う何かが彼女のデザインにあったからだろう。

ペレッティ以前のジュエリーは、石ありきのいかにも財産的か権力象徴のようなもの、もしくはアートのように少し奇をてらったもののいずれかだったのではないか。そして、女性が自分への「ご褒美」として買うジュエリーはほぼ皆無で、家族内で受け継がれているもの、もしくは男性から女性へプレゼントされるものとしての宝石だったのだろう。それを大きく変えたのが、70年代のペレッティのオープンハートでありダイヤモンドバイザヤードではなかったのだろうか。自立した女性が自分のために購入するジュエリーとして、新たな地位を確立した時代を象徴したのがペレッティのジュエリーだったのではないだろうか。ティファニーというブランドながら、シルバー素材の購入しやすい価格帯からラインナップしていたのも大きな要因だったであろう。

ジュエリーとして身に着けるものでありながら、アートのオブジェのように少しひねりのあるデザイン。手で触れてその滑らかさと存在感を感じていられるジュエリー。金属なのにその息遣いを感じるようなジュエリー。

ありがとう、ペレッティ。貴方のデザインが存在する時代に生まれて幸せです。

80年代のアメリカに憧れを抱き、18歳で渡米。読んだエッセイに感銘を受け、宝石鑑定士の資格を取得。訳あって帰国し、現在は宝石(鉱物)の知識を生かし半導体や燃料電池などの翻訳・通訳を生業としている。