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大統領就任式で目立ったのは?

地球からの贈りもの 〜宝石物語 135〜
大統領就任式で目立ったのは?

筆者:金子倫子

七草粥を食べる前に、アメリカの歴史的な激震を目の当たりにした2021年の始まり。1月6日の連邦議会議事堂へのトランプ前大統領支持者らの乱入は、この4年間の膿が噴きだしたような事件だった。アメリカの様々な側面を一度に見たような、歴史的に大きな事件だった。そんな情勢で行われた20日の大統領就任式は、世界中が注目するなかで行われた。

公人はイベントなどで身に着けるものが話題になることが分かっているので、デザイナーやデザイン自体に意味を持たせることが多い。ジル・バイデン大統領夫人が選んだのは、マルカリアンというニューヨークで創立して数年という新しいブランド。セルリアンブルーのツイードコートに揃いのドレスで、ブロンドの髪と相まって明るい爽やかな印象だった。カマラ・ハリス副大統領とミッシェル・オバマ元大統領夫人はセルジオ・ハドソン、クリストファー・ジョン・ロジャースという黒人のデザイナーを起用。二人とも紫系の色合いで、ヒラリー・クリントン元大統領夫人も紫。ヒラリーは2016年の大統領選の敗北宣言で紫を着用。共和党と民主党のカラーである赤と青を混ぜると紫になるという、調和を表現するべくこの色を選んだという。今回の紫はその理由かもしれないし、以前このコラムでも触れた「サフラジェット」という女性参政権運動のテーマカラーである、白、紫、緑の一色なので選ばれたのかもしれない。エリザベス・ウォーレン上院議員は、薄い紫のプランド・ペアレントフッドのロゴ入りのマフラーを着用し、政治的理念も装いに盛り込んだ。

思想や理念と言う意味では、国家を斉唱したレディー・ガガは、大きな金色の、オリーブの枝を口にくわえたハトのブローチを身に着けた。平和や調和を意味するハトで新しい時代の平和を願ったのだろう。歌を披露したもう一人であるジェニファー・ロペスは、丈の長いコートをはじめ全身白のシャネルの装い。大きなシャネルマークのイヤリングに、シャネルを象徴するジャラジャラ着けるコスチュームジュエリー。左手薬指には、婚約者であるアレックス・ロドリゲスから贈られた15カラットとも言われるエメラルドカットの大きなダイヤモンド。ホワイトハウスを去ったメラニア前大統領夫人は、黒のシャネルのジャケットにドルチェ&ガッバーナの黒のワンピース、その他も全身黒の装いで、極めつけはサングラス。敗者の去り方としては適した装いかもしれない。

一方で、こうした政治やエンターテイメントのトップの人々よりも圧倒的に話題をさらったのが、詩人のアマンダ・ゴーマン。大統領就任式で詩を朗読した中で最も若い22歳。白シャツに黒のスカート、そして真っ黄色のコートに赤のサテンのヘッドバンド。全てプラダだそうだ。そしてオプラ・ウィンフリーより贈られたゴールドのイヤリングに、鳥かごのデザインの大きなリングを右手中指に。この鳥かごは1993年にビル・クリントン元大統領の就任式で朗読したマヤ・アンジェローの詩に因んでいるそうだ。力強い言葉を投げかけ、両手を広げる度に鳥かごのリングが宙を舞うかの様子で、その圧倒的存在感に新しい時代を見た気がした。

話題性からしたら、アマンダに匹敵したのが唯一無二のバーニー・サンダース。彼の防寒第一の装いはフォーマル感ゼロ。しかし2年前に地元バーモント州の教師に贈られたという、セーターを再利用したウール編みで中はフリース素材のミトンがSNSで話題に。サンダースの装いはミーム現象を引き起こし、この装いのサンダースは色んな映像や写真に組み込まれ話題をさらった。ゲッティー・イメージはサンダースのイメージを使った映像動画から得る利益を寄付するとし、現在までに約2億円の額がバーモント州の様々なチャリティーに寄付された。

サンダースの装いはマナーとしては不可だが、困窮者救済をモットーとするサンダースの政治的な成功と言っても間違いないだろう。

80年代のアメリカに憧れを抱き、18歳で渡米。読んだエッセイに感銘を受け、宝石鑑定士の資格を取得。訳あって帰国し、現在は宝石(鉱物)の知識を生かし半導体や燃料電池などの翻訳・通訳を生業としている。