Home 食・旅・カルチャー 地球からの贈りもの~宝石物語~ 思い出のショーメ展

思い出のショーメ展

地球からの贈りもの~宝石物語110~

筆者:金子 倫子

今回は、私にとって生涯忘れられない思い出となったショーメ展にちなんだ話を。この展示会、東京駅から徒歩5分ぐらいの三菱一号館美術館で9月17日まで開催されている。

この展示会が生涯忘れられない思い出になったのは、このコラム連載の始まりとも深い関係がある。この連載、ご縁というか様々な方からのご協力というか、実は既に始まりから8年目という、何とも長い間連載させて頂いている。そのきっかけを作ってくれたのが、今回ショーメ展を一緒に観た友人である。今年21歳になる私達の長女達が、シアトル日本語補習学校に入学した時からのお付き合いであるこの友人。私の前にこの枠でコラム連載をしていた方と知り合いで、その連載が終了するのを聞き、私をその方に繋いでくれて、その方が北米報知に紹介してくれた。連載第1回目が発行されたのは、2010年10月20日。語呂が良いこともあり、忘れられない日。べレビューの宇和島屋に何度も立ち寄り、紙面を確認しようとしたのだが、中々届かない。聞けばべレビューは一日ぐらい配達が遅いということで、結局シアトルの宇和島屋まで取りに行ったのだ。紹介してくれたその友人も、発行当日に自ら取りに行き読んでくれた。そしてとても喜び、電話をくれたのを今でも思い出す。当初は一年ぐらい連載が続けばいいなと思っていたのが、気づけばこれだけ長く続けさせてもらっている。

その友人は名古屋出身なので、茨城出身の私とは、帰省しても日本であうチャンスは今まで無かった。それがスケジュールの都合がつき会えることになり、しかも一緒に一流メゾンの展示会を観ることができた。

レンガの趣がとても美しい東京駅から近い三菱一号館美術館。まさに都会のオアシスという感じ。中に入れば、外の丸の内オフィス街が別世界に感じるような、1780年創業という圧倒的な歴史がそこにあった。1780年創業というのはジュエラーとしても最も古いものの一つ。カルティエより、ブルガリより、ティファニーよりも古い。パリの名所の一つであるヴァンドーム広場。高級店が軒を連ねるが、ショーメは1812年に早々とこの地に店を開いた。創業者のマリ・エトゥエンヌ・ニトが落馬したナポレオンを助けたことからナポレオンとの関係が始まり、御用達のジュエラーとなり、その地位を築いたとされる。ナポレオンの戴冠式の王冠や妻ジョセフィーヌのティアラ、その他のジュエリーを製作し、その知名度は一気にヨーロッパ中に広まった。

今回の展示会でも、いくつものティアラが展示されていた。ショーメは創業から今までに、王侯貴族向けにすでに2000個を超えるティアラを作ってきたとされる。この展示会では、ジュエリーとして作られる前の最終段階にある、金属で作られたティアラの模型も100個ぐらい壁にディスプレイされていた。どうやって頭につけるのか??と謎だらけになってしまうような形の物などもあり、デザインだけみるのもとても興味深かった。

宝石のついたティアラも何点もあったのだが、特筆すべきは、展示会のチケットの表紙を飾る、1811年頃に創業者ニトによって作られた“麦の穂のティアラ”と2016年製作のローリエのティアラ“アポロンの蒼穹”。名前から想像できるように、どちらも植物がモチーフである。

アポロンの蒼穹はたった数年前に製作されたので歴史や過去の所有者などの付加価値はない。しかし、中央に鎮座するあのサファイアの色と言ったら。今まで見た中で最も美しく、これぞサファイアという蒼だった。そのサファイアをかばう様に、ダイヤモンドが敷き詰められたローリエの葉がサファイアに向かって伸びている。

今回、思い出話にいっぱい字数を使ってしまったが、来週はナポレオンとジョゼフィーヌを飾ったショーメのジュエリー数々の話を、愛の始まりから終わりまでの歴史と共に。

80年代のアメリカに憧れを抱き、18歳で渡米。読んだエッセイに感銘を受け、宝石鑑定士の資格を取得。訳あって帰国し、現在は宝石(鉱物)の知識を生かし半導体や燃料電池などの翻訳・通訳を生業としている。