金を求めて三千里
By 金子倫子
年がら年中この話題を取り上げていると思われるだろうが、今回も金の話。「史上最高値」という言葉を聞き慣れてしまったほど、金の価格は未だ上昇を続けている。
それに伴い、金にまつわる犯罪も未だかつてない規模になっている。
銀行の貸金庫を借りている人にはかなりショックが大きかったであろう、今年1月に起きた、元銀行員の今村由香理容疑者による貸金庫からの窃盗事件。
三菱UFJ銀行は、被害を受けたのは約70人で、被害総額約14億円のうち約7億円の補償をこれまでに実施したと発表。金塊の窃盗も行われており、今村容疑者は社内の異動期にそれまでに盗んだ現金を貸金庫に戻すため、2キロの金塊を盗み、それを現金化して返却に充てたとされる。
貸金庫の特徴である、借りる側や預ける内容の匿名性が裏目に出てしまった。中身を全て証明することも開示することも無い事を考えると、本当の被害額は遥かに大きいかもしれない。
以前本コラムで、英中央銀行に保管されている大量の金塊について紹介したことがある(2023年12月8日号)。ブルームバーグ(www.bloomberg.com)の記事によれば、米銀JPモルガン・チェースは2月、今後の関税への懸念などから、先物取引での現物受け渡しのため、40億㌦分の金塊を英中央銀行から米国へ輸送している。
保管されている大量の金塊といえば、2月中頃、イーロン・マスク氏によるソーシャルメディアでのコメントが発端となり、ケンタッキー州フォートノックスの金の保管庫にある、約1億5000万トロイオンス(1トロイオンス=約31グラム)、時価総額で4000億㌦の金塊に関する窃盗疑惑が再沸騰している。
現時点で1トロイオンス約3000㌦まで高騰しているが、政府による帳簿価格の時価だと約42㌦だそうだ。いずれにしろ大量の金塊が保管されているという事になるが、外部の者が確認したのは公式な記録で過去に3回のみ。1943年のルーズベルト大統領、1974年に10名の議員が訪問し、直近では2017年の財務長官を含む代表団。直近が第一期トランプ政権下で決行された事を考えれば、金塊が盗まれている可能性は低いかも知れない。ただ、これだけ多量ともなれば多少減っていても気づかないかもしれないし、冒頭で述べた銀行の貸金庫の事を考えると、盗難被害を懸念するのも然るべきだろう。
金を利用した犯罪も増加の一途で、警察官を名乗る者から電話があり、「あなたの口座が犯罪に利用されています」などと言い、預金で金地金(インゴッド)を買わせ、それをだまし取るという詐欺行為が今深刻な被害を生んでいる。日本では昨年の6月以降、21件の被害を確認し、被害総額は9億円超に上るという。アメリカでは、2024年同様の手口での被害は1億2600万㌦に上るとFBIが報告している。この様な詐欺犯罪があることを知り、日頃から対応策などを考えることが重要だろう。
金の高騰が顕著になって以来、私も所持品の価値を知るために、定期的に買取業者で査定してもらっている。先月初めて、私が生まれた年に開催された国体記念の、造幣局の刻印付き純金コインを持ち込んだ。コインでは味気ないと思ったのか、ペンダントとして身に着けられるように、父がわざわざ18金の枠を付けたのだが、それもあって純金のコイン部分の重量が明確ではない。業者がネットで調べても同じ品を見つけることができず、本当に売却するのであれば枠を外して正確な重量を確認するしかないという。コインの希少性は別として、金だけでも少なく見積もっても35万円位とのこと。それを母に話したら、父が私の誕生記念に買ったと思っていたこの純金コイン、どうやら貰い物らしい。父が33歳の若さで水戸高島屋の店長になった時期と重なるし、水戸で開催された国体の記念コイン。母も金メッキか何かと思っていたらしいが、当時の時価はグラム1500円程度で去年の10分の1と考えると、貰い物でも不思議ではないかも。
▲実際の記念純金コインの表と裏。
裏面にはこの時の大会のテーマ、「水と緑のまごころ国体」とある
認知症がちらほら見え隠れする父は、このコインの事もそれを私にくれた事も覚えていない。でも私には一番の宝物。私と同じ年の純金コインは私の残りの人生も見守ってくれるだろう。