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ハリー王子の婚約

2017年も残すところあと僅かになり、これほど「平和」について考えたことが私の人生にあっただろうかと、今年の出来事を思い返す。この混沌とした状況を超えて、さらに平和な世界を迎えられればと願わずにはいられない年の瀬である。

不穏な落ち着かない2017年であったが、年の瀬を前にしておめでたいニュースがあった。イギリスのハリー王子婚約発表だ。お相手はアメリカ人女優であるメーガン・マークルさん。彼女が出演していたドラマシリーズの視聴者の一人としては、嬉しい驚きだった。有名人の婚約と言えば、注目はもちろん婚約指輪だろう。ハリウッド・セレブの10カラット、20カラットなどの婚約指輪に見慣れていると、イギリス王子が贈ったものにしては小さいのではと思った方も多いのでは。以前にも触れたことがあるが、実は世界の王室は意外と質素な指輪を選ぶことも多い。もちろん一般人の基準からすればかなり大きいが、ハリウッドの基準からすると小さく感じる。モナコの故レーニエ3世が、ハリウッド女優たちが身に着けるダイヤモンドの大きさに驚いて、婚約した元ハリウッド女優グレース・ケリーに10カラット強のエメラルドカットの指輪を2つ目の婚約指輪として贈ったという逸話もある。

メーガンさんの指輪に話を戻そう。約3カラット程と見られるクッションカットのダイヤが中央にあり、その両脇を故ダイアナ妃の形見であるダイヤモンドが左右に一つづつ。地金はイエローゴールド。兄であるウィリアム王子も、故ダイアナ妃の婚約指輪であり形見として大切にしていたサファイアの指輪をキャサリン妃へ婚約指輪として贈っていた。宝石が他の物と一線を画すのは、やはりこうやって代々引き継ぐことが出来るからではないか。

中央に鎮座するクッションカットのダイヤモンドも注目に値する。ハリー王子が愛するアフリカのボツワナ共和国から採掘されたダイヤだそうだ。ボツワナ共和国は南アフリカ共和国のすぐ上に位置する国であり、1966年にイギリスから独立している。ブラッド・ダイヤモンド-その売り上げがテロや反国家 勢力の軍事資金として利用されているダイヤモンドの事は既にご存知だろう。ボツワナ共和国はほぼその逆を行く、ダイヤモンド採掘国としての成功例だ。独立直後に運よくダイヤモンド鉱山が発見され、独立政府はダイヤモンド採掘からの利益を国民に還元し、教育や医療の普及に力を注いだ。アフリカ全体の識字率は60%程だが、ボツワナ単独だと80%強だ。いつかダイヤモンドは枯渇するかもしれないし、実際のところ採掘量は減っている。しかし、学を身に着けたボツワナの子供たちがいればまだまだ未来は明るいだろう。

故ダイアナ妃が亡くなって20年が経った。享年36歳。メーガンさんも現在36歳だ。実は私の母の母も37歳で亡くなっており、母は37歳を超すまでそれ以上生きられるのか不安だったと言っていた。これと同じことを佐田啓二という父を早くに亡くした中井貴 一が言っていた。そして自身も父が亡くなった年を越すまで生きられるか不安で結婚する気にならなかったとも。ハリー王子も、自分の大切な人が母の様に自分を置いて逝ってしまうのではないか不安だったのかもしれない。

故ダイアナ妃はたった36歳だったんだという事を再確認して驚愕する。世間の弱者に注目が行くように活動した故ダイアナ妃。メーガンさんも、義理の姉となるキャサリン妃も、そんなプリンセスになって欲しいと願わずにいられない年の瀬である。

(金子倫子)

80年代のアメリカに憧れを抱き、18歳で渡米。読んだエッセイに感銘を受け、宝石鑑定士の資格を取得。訳あって帰国し、現在は宝石(鉱物)の知識を生かし半導体や燃料電池などの翻訳・通訳を生業としている。