Home 食・旅・カルチャー 地球からの贈りもの~宝石物語~ クオーツ時計の台頭

クオーツ時計の台頭

これを書いている数日前に、58名が犠牲になるという銃撃事件が起きた。けが人を入れれば500人以上という惨劇。いつになったら、こういった銃による悲劇が終わるのだろうか。そろそろ本気で銃社会アメリカというレッテルに別れを告げる時が来たのではないか。

政治のコラムではないので、そういった内容には触れるべきではないのは分かっているが、何だか世の中良くなるような気がしなくなってしまうくらい不安定だ。ハリケーン被害、NFLの国家斉唱拒否、北朝鮮、ロシアと内外共に問題が山積みである。

私の実家は茨城県にあるのだが、北朝鮮のミサイル発射時は2度ともJアラートが鳴り響いたそうだ。防災無線や、市内にある防災用のスピーカー、携帯電話やテレビから一斉にわんわんと緊急のサイレンが鳴り響いたと。子どもの喧嘩であれば喧嘩両成敗で済むが、国のトップともなれば、国民全ての命がかかっている。アメリカ本土へは遠いと思っているかもしれないが、ミサイルは祖国日本の上を通り過ぎている。日本は唯一の被爆国。それを踏まえて、同盟国であるアメリカが平和的な対話へ進むよう、導くべきではないだろうか。

それでは本来のトピックに戻ろう。前回、人間の英知を小さな枠に詰め込んだような、時計のコンプリケーションの話をした。ミニッツリピーターや、トゥールビヨン、万年カレンダーなど。100を超えるパーツを小さな枠に収めるために、熟練の職人が200~300時間もかける。そんな芸術であり技の尊さが数十年もの間忘れられてしまうほどの時計改革が、クオーツ時計の登場である。実際、クオーツ時計の原理はすでに第二世界大戦前には発見されており、大型の柱時計として使用されたものもある。しかし、それを腕時計に収まる大きさと重さに応用するのに長い時間を要した。

クオーツとは水晶である。クオーツは地球上で最も多い元素であるケイ素(Si)と酸素からなる。英語だとシリコンだが、よく豊胸手術などに使われるシリコン(アルファベットのつづりも違う)とは全く別物なのでご注意。宝石の世界では、クオーツはアメシストであり、シトリンであり、ロッククリスタル、ローズクオーツ、その他数多くのバラエティーがある。色も透明度も多様であり、クリアなものからすりガラスのように曇ったものまで。クオーツファミリーの中で最も一般的であり人気があるのが2月の誕生石アメシストと11月の誕生石シトリンだろう。そういう私も11月生まれなのと買いやすい値段ということもあり、シトリンを以前集めていた。実は今マーケットに出ているクオーツファミリーは6割が人工ものだと言われる。クオーツは地球で3番目に多い元素であるケイ素からなるので、原料が枯渇することはまずないだろう。クオーツは短時間で結晶化したり、不純物があまり入らないのが特徴。大して苦労しなくても手に入るし、クオリティーも高い。もちろんグレードによるが、クオーツ類は1カラット当たり何十セントというのが卸しでの相場で、天然物でも安い。よって、人工か天然かと専門機関に鑑定に出すほうがはるかに高くつく。

もともと不純物がほとんどないクオーツだが、時計に組み込まれるようなクオーツはそれこそ不純物フリーでなければならない。クオーツ時計の原理をざっくり説明すると、バッテリーから電流を加えると1秒で3万2,768回振動するというクオーツの性質を、秒針の1秒分を動かす動力にするというもの。不純物が入っていればその3万2,768回の振動が狂い、正確な時を刻むのが困難となる。鉱物というのは構成する元素やその構成形態によって光の屈折率や電気の流れる速度が変わってしまう。よって不純物による誤差を防ぐためにも、完璧なクオーツが必要なのだ。

クオーツの原理を腕時計に応用したのは、諏訪精工舎、現在のセイコーエプソンである。次回はSEIKOとクオーツの進化について、もう少し詳しく。

(金子倫子)

80年代のアメリカに憧れを抱き、18歳で渡米。読んだエッセイに感銘を受け、宝石鑑定士の資格を取得。訳あって帰国し、現在は宝石(鉱物)の知識を生かし半導体や燃料電池などの翻訳・通訳を生業としている。