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「技術の進化のみならず、 知ってもらう機会を増やす」

文= 佐々木 志峰

ワシントン大学での講演のあと、加藤氏に話を聞いてみた。

――天童木工の生まれた山形。職人の気質、土地柄について。

「冬の寒さと夏の暑さという厳しい東北地方で、日本の木工製品は冬の農作業ができず、外出もできない中で家の中の手仕事で生まれました。厳しい気候の中で、山形の人々は我慢強く、素直であるという気質もあると思います」

――デザイナーと天童木工の相互関係はうまくいっている。

「歴史的に見ると、デザイナーさんが作りたいものを私たちが技術で具現化していくということで互いに成長していったというところが大きいと思います。見た目は外部のデザイナーさんが提示し、そのデザインの実現を大前提に、実際の感覚や手触りを大事にしています」

――創業から77年。変わらない芯というものは。

「職人、クラフトマンシップという部分でしょうか。オートメーションなど、企業として判断しなければならない中で、人の手としてのぬくもりをどこに残していくのか。我々が判断しなければならない課題でもあります」

――日本の杉の有効利用について。

「戦後復興の国策のなかで、日本では成長が早く、50、60年で使えるようになるという杉が植えられていきました。一方で自由化も始まり、せっかく植えて、これから増えていく中で使い先がなくなくなる事態となりました。
2015年の統計では国土面積の66%が森林に対し、木材自給率は33%とちぐはぐな現象になっています。日本も懸念して、何とか食い止めたいということで、現在の国策として杉の有効利用があります」

――シアトルで活動紹介することは。

「林業の歴史がある地ということもありますが、日本の森林状況、木材加工業といったものへの関心が非常に高いという印象を受けました。
森林が身近な地域ということで親しみを感じた一方、日本の森林は、林業というよりは、自生というイメージしかなく、ビジネスにつながるイメージがなかなかありません。シアトルでは一般市民の方が意識をしている感じがしました。
私たちや国が林業自体をもっと近く、大切で重要な課題の1つとして、勝手に回るものではなく、自分たちもその一員であるという意識を持つ必要があります。
我々もメーカーとして、一般の人々に気付きを与えるミッションを持っています」

――林業のサステナビリティについて。

「杉の場合は間伐、伐採というと、切り倒し続けるイメージになってしまいますが、実は間引きに近く、森全体の中で引いてあげて、その間伐材を有効に活用するということになります。
森は残されたものでエネルギーを土壌からより吸収しやすくなり、成長しやすくなります。
割りばしが間伐材で作られているように、森林全体の活性化と、少し視点を大きくすることも必要かと思います。
ただこれは森林側からの発信が足りていないのかもしれないという感じもします」

――今後の方向性について。

「私たちはこれまでもそうでしたが、新しい技術に着目してそれを研究、深化させていくという取り組みをしてきた企業です。
車のステアリングを木で作る技術は、私たちが向かっている技術にデザイナーや企業などが注目して声をかけていただいたことで生まれました。一つの技術を突き進めていく中で、パートナーさんに声をかけていただき、技術を応用させ、研究を進めていくということを考えています。
いろいろな可能性にチャレンジするというのは、私たち自身の技術の話だけでなく、それを実際に目にしてもらえる機会も広げてくれます。
自動車のハンドルという事業は、会社を始めたときには想像もしなかったことで、米国ではレクサスのハンドルを作っているメーカーという認識を持たれています。
分野を広げることは技術の進化のみならず、知ってもらう機会につながるのだと思いを強くしました」

――ありがとうございました。

N.A.P. Staff
北米報知は、ワシントン州シアトルで英語及び日本語で地元シアトルの時事ニュースや日系コミュニティーの話題を発信する新聞。1902年に創刊した「北米時事 (North American Times)」を前身とし、第二次世界大戦後に強制収容から引き上げた日系アメリカ人によって「北米報知(North American Post)」として再刊された。現存する邦字新聞として北米最古の歴史を誇る。1950年以前の記事は、ワシントン大学と北米報知財団との共同プロジェクトからデジタル化され、デジタル・アーカイブとして閲覧が可能(https://content.lib.washington.edu/nikkeiweb/index.html)。