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コロナ禍のメッセージ伝え続ける鷹松弘章さん

筆者:福田 恵子

日本に気づいてほしい

シアトル郊外に本社を置くIT企業タブローソフトウエアの開発マネージャーでありながら、複数の企業の社外取締役を務め、さらには『世界基準の子育てのルール』という著書も上梓している鷹松弘章さん。実に多彩な顔を持つ鷹松さんとは、過去に数度取材させていただいた関係でfacebookでつながっている。その鷹松さんの投稿が、アメリカから日本へ向けての新型コロナウイルス関連の注意を呼びかけるものが中心となったのは3月の中旬頃だっただろうか。それまでは、地元シアトルや日本各地での講演関連や自分で小型飛行機の操縦桿を握る写真が多かった記憶がある。

鷹松さんが暮らすワシントン州は、周知のようにアメリカで最初の新型コロナウイルスによる死者が確認された土地だ。鷹松さんは肌で感じる地元の状況を、時にはデータやニュースのリンクを添えて発信し続けている。そのモチベーションとなっているものは何か、電話取材で本人に聞いた。

「元々、僕が日本に対して伝えていることを簡単に言うと、日本人が幸せというものを履き違えていて、お金の奴隷になってしまっている、そのことに気づいてほしいということでした。仕事第一でやっているために家庭内の雰囲気が良くなかったり、またコロナウイルスの問題が起こった時に結局これまで働き方改革を何も進めてこなかったことが露呈したりしたわけです」。

母国を客観的に見る

すぐそこにある本当の幸せに気づいてほしいと、これまでも日本人に向けて訴え続けていた鷹松さんはま た、今回のコロナの一件で、母国、日本の人々が心配なあまり、頻繁に情報を発信するようになったのだ。しかし、日本側の反応は様々だ。素直に受け取る人もいれば、今は日本に住んでいないのに海の向こうから上から目線で言われたくないといったネガティブな受け止め方をする人もいる。それでも鷹松さんは「日本でも、もっと危機感を持ってもらわなければ大変なことになる」という一心で、決して心折れることはない。

「ネガティブな反応をする人は声が大きいから、それが目立ってしまうのだと思います。応援、賛同してくれる方は、コメントを残すよりも、直接メッセージをくれたり、電話をかけてきたりします。意外だったのはポジティブな反応をしてくれる人たちが実は20代や30代と僕より若い年代の人たちだということです。これはこれからの日本にとって夢があるな、と期待しています。そういう明るいパワーを持った人たちの影響力を強くすることが今後の課題だと考えています。例えば、僕の投稿を読んで『(日本人には)耳が痛いだけで言葉がきついよ。新型コロナの対策を何もやってないわけではなくて、粛々と黙ってやっている日本人は大勢いるんだ』と反論されたりもしました。しかし、粛々とやるからそれが伝わらなくて社会のためになっていないのです。もっと、対策を取ったり行動したりしている人には発言力を強めてほしいと思います」。

さらに、鷹松さんは「日本人は一度海外に出ると、日本のことを客観的に見ることができるようになります。そしてアメリカやヨーロッパに出ると、ディスカッションとは決して遺恨を残すことでもなければ、相手の意見を個人的に受け止るべきでもないことを理解できるようになるのです」と付け加えた。

世界の合衆国、アメリカ

高校時代に競技スキーの選手だった鷹松さんは、日本国内の大学にスポーツ推薦で進学する予定だった。しかし、怪我が原因でその進学は消えてしまった。そこで海外の大学に留学するプランが浮上、カナダのブリティッシュコロンビア州にある大学に入学した。卒業後は日本でロータスに就職、その後日本マイクロソフトに転職。さらに同社のアメリカ本社の主幹マネージャーを経て、2017年からタブロー・ソフトウエアで勤務している。

すでにアメリカ市民権も取得した鷹松さん、「あなたは何人ですか?」と聞かれたら、なんと答えるだろうか?「日本生まれの世界人、ですね。それしか言いようがないです。そのことに、アメリカ国籍を取った時に気づかされました。アメリカ市民権を取った人が一堂に集まってお祝いする場で、当時のオバマ大統領が『この国、アメリカは世界中から集まって来た人々のためにある国だ。今回、あなたたちがアメリカ人になったのだから、次は兄弟家族をここに呼び寄せてあげる番だ』というメッセージを送ってくれました。つまり、アメリカというのは世界の合衆国なのだなと腑に落ちたのです」。

日本生まれの世界人だと答えた鷹松さんに、コロナウイルスが収束しているはずの10年後はどこで何をしているのか聞いてみた。「夫婦で世界を見て回りたいですね。そして実際に見たことやものを、今と同じように情報として伝えていくことが夢です。そのためにパイロットの免許を取得しようと思ったほどなので、夫婦で飛行機で巡りたいです。その気になれば世界1周もできます(笑)」。

話を聞いた4月中旬は、数週間に及ぶワシントン州の自宅待機命令は他州同様にまだ解除されていなかった。「自宅で過ごすことで、家族だけの親密な時間が送ることができています。この上もなく幸せです」という言葉には、一点の曇りもなかった。

鷹松弘章さんの公式サイトhttps://hiroakitakamatsu.com

*編集注記:同記事は、全米日系人博物館が運営するディスカバー・ニッケイ(discovernikkei.org)の「絆2020:ニッケイの思いやりと連帯―新型コロナウイルスの世界的大流行を受けて」シリーズとして5月11日に掲載された記事を転載したものです。

大分県出身。国際基督教大学を卒業後、東京の情報誌出版社に勤務。1992年単身渡米。日本語のコミュニティー誌の編集長を 11年。2003年フリーランスとなり、人物取材を中心に、日米の雑誌に執筆。共著書に「日本に生まれて」(阪急コミュニケーションズ刊)がある。