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Vol. 202 新風にさらされた定番ジュエリー

Vol. 202 新風にさらされた定番ジュエリー

By 金子倫子

千葉や九州の豪雨、ネパールと中国国境近くの土石流、世界各地での最高記録を塗り替えるほどの気温の上昇。地球温暖化の影響は今や疑いようもないとは思うが、きっと人類が誕生する前から、こういった異常気象、気候の変化などが繰り返されてきたのだろう。この大きなサイクルの中で、自分がどの位置に居るのか。単純にそれだけの事なのかも知れない。

ジュエリーの世界でも、発売時から不変の物。マイナーチェンジで定期的に更新される物。廃番になっても、再解釈などで復活する物。顧客獲得のためにさまざまな手を凝らす。

最近気になったのは、ティファニー社の「16ストーンシ」リーズ。1959年、ジャン・シュランバージェによるこのデザイン。ジャンの生家である繊維業から着想を得たクロスステッチが特徴的。プラチナ台のリング一周を、8つの金のステッチとその間に2つのダイヤモンドが配されている。16の小さなダイヤモンドで、16ストーン。現在1・14カラットのダイヤ付きで18000ドル。このリングに関しては、本連載が始まって間もない頃、当時のママ友がはめていたこともあり、紹介した事がある。当時でも12000ドルほどだったはず。彼女は分かりやすいブランド品を身に着けるタイプの人ではなかったので、予想だにしなかったその指にはめられた16ストーンを見た時の衝撃と興奮は、今でも覚えている。彼女が選んだのか? 旦那さんだったのか? 聞けず仕舞いで残念だが、残像は今も頭の片隅にある。

そして今年の6月、この指輪の立て爪バージョンが新登場。中央のダイヤモンドを支える爪は、金ではなくプラチナのステッチ。実はよくよく見ると、中央のメインのダイヤモンドの片側に5粒ずつのダイヤモンドなので、計10個。もはや16ストーンではなくなってしまっている。ただ、指輪以外のブレスレット、ピアス、ネックレスもすでにに16ストーンではないので、指摘するだけ野暮というものか。

興味深いのは、アカデミー賞の主演女優賞も受賞した現在27歳のマイキー・マディソンを起用したキャンペーン。動画では、これから外出するであろう女性が支度の最後に、ティファニーブルーのリングケースからリングを取り出す。そして、いわゆる花占いの様に、「好き/嫌い」と言いながら薬指と人差し指に立て爪の16ストーンリングを交互にはめ替える。そして最後に「アイラブ・ミー」と言って中指にはめて立ち上がる。結婚指輪としてオリジナルの16ストーンが発売されたが、この中央に大粒のダイヤを配したソリティア版のリングは婚約指輪用?と思わせつつも、実は「自分のために」というメッセージも込められている様だ。大粒のダイヤモンドを自分で買える女性がこんなにも増えることを、1959年当時のジャンは想像できただろうか。それを思うと、こんな時代に生きることが出来て良かったと思わずにはいられない。

そして次に、ヴァンクリーフ&アーペルのアルハンブラ。これは定番中の定番だが、全く新しい素材の新作が今年9月1日に発表された。それがピンクのエナメル。多くの人が想像するエナメルとは違い、透明感がありつやつやで、中にたくさんの細かい気泡がある。まるでジョリーランチャー(ハードキャンディー)のスイカ味の様な感じ。17世紀のヨーロッパで確立されたルージュ・ア・ロールという、顔料を使わずにゴールド粒子によって鮮やかな赤やピンクを生み出す製法とのこと。ガラス質の素材に含まれる金粒子の大きさ・形状・濃度などを綿密にコントロールすることによって、この色と透明感を出すそう。かなりの技術力と環境が必要との事だ。日本でも金赤釉薬きんあかゆうやくという物があり、ガラス素材に0.01〜0.03%含まれる金を加熱する事によって赤いガラスにする技法が存在するそう。七宝焼き(エナメル)技法の中でも最高峰とも言われ、グラスや装飾品に使われている。最初見たときにエナメルにこの価格?と思ったのだが、最高峰技法ということなら、ヴィンテージアルハンブラのピンクのエナメルのペンダントが3300ドル(56万6500円)なのも、致し方ないのかもしれない。