Home 食・旅・カルチャー 地球からの贈りもの~宝石物語~ フェイクそれともリアル?

フェイクそれともリアル?

トランプ大統領が連呼する言葉に「フェイク・ニュース」がある。大統領の示唆するニュースがフェイクか否かは分からないが、最近のフェイクは巧みすぎて、まるで分らないことが多々ある。何とも怖い世の中になったものだ。

私はSNSをほとんどしない。だから、動画や画像を加工するようなアプリなどにも疎い。子供たちの方が圧倒的に情報が早く、子供に聞いて驚くばかりだ。最近では、本人が喋っていない事でも、その本人が喋っているように見せるアプリもあるそうだ。写真などの加工も驚くほど絶妙だ。日本で開かれたG20で、イバンカ・トランプ氏が、各国の首相などの話に割って入ろうとしていた恥ずかしい動画が、フランスの報道陣によって流れた。それを揶揄するべく、イバンカ氏が歴史上の重要な場面に割り込んでいるように加工した写真がいくつもネット上で流れた。そういったおふざけはともかく、今はまだ見破れる程度の加工なのかもしれないが、それがもし見破れなくなった時はどうなるのだろうか?

本物か偽物か。宝石に関してのこの疑問は、宝石の歴史と共にある。実際、偽物の歴史も本物の歴史とほぼ同じぐらい長い。このコラムでも、そういった宝石イミテーションの話には触れてきた。米国では、フェデラル・トレード・コミッション(FTC)という組織が、ダイヤモンドなどの宝石販売に関してガイドラインを出している。それによれば、ダイヤモンドは「宝石」ではなくほぼ炭素のみで出来た「物質」と規定されている。また、宝石を表現するときに「フェイク」とか「リアル」というような単語の使用は禁じられている。「リアル・ダイヤモンド」とうたって客に売ることはできず、「本物の」という意味で使いたいときは、人工的に作られたものではない天然のものという意味で「ナチュラル・ダイヤモンド」としなければならない。逆に、偽物であれば「イミテーション」などの単語を使う。

人工ダイヤモンドの技術は、ここ2年ぐらいで一気に加速した。以前はキュービック・ジルコニアやモアサナイトなどがダイヤモンドの代用品になっていた。しかし、大量生産技術の発達で、シンセティック(人工ダイヤモンド)が参戦してきた。シンセティックというのは、物質もその構造も全くオリジナルのダイアモンドと同じである。だから、本物のダイヤモンドと言えば本物で、あくまでも天然ではなく人工的に作ったというだけの事である。日本のテレビ番組で、道行く人に、天然ダイヤモンドとシンセティックを比較させて「本物か偽物か」を問うものがあった。プロからすると、この試みは愚の骨頂。なぜなら、経験を積んだジェモロジストでも、目視で分かるものではないからだ。天然と養殖のウナギの蒲焼があったとして、それを見た目でどっちがどっちかなどとは断定できないだろう。シンセティックダイヤモンドも同じ論理である。シンセティックは1950年代から研究されており、宝飾品レベルのシンセティック制作に最初に成功した会社の一つが京セラだ。60年以上前に研究が始まったにも関わらず、大量生産に至るまでは随分と時間がかかった。実際に、無色透明のダイヤモンドが造れるようになったのは本当にこの3、4年の事。私の古巣であるGIA(Gemological Institute of America)も既に30年以上前から着目しており、2006年からはシンセティックはシンセティックとして証明書を出している。GIAで鑑定されたシンセティック・ダイヤモンドはガードルト呼ばれる部分にシンセティックであると刻印がしてある。

シンセティックの詳細はまた次回。

80年代のアメリカに憧れを抱き、18歳で渡米。読んだエッセイに感銘を受け、宝石鑑定士の資格を取得。訳あって帰国し、現在は宝石(鉱物)の知識を生かし半導体や燃料電池などの翻訳・通訳を生業としている。