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岩手の名勝負

5月末と少し前になるが、シアトル・マリナーズの本拠地Tモバイルパークが日本メディアでにぎわった。ロサンゼルス・エンゼルスとのシリーズで、それぞれのチームに所属する菊池雄星、大谷翔平両選手による大リーグでの初対戦が期待されていた。

岩手県・花巻東高校で3年違いの間柄。岩手の地元紙からは記者に加え、カメラ担当が2人現地入りしたと聞いた。菊池投手も対戦前に「僕らは岩手県という地方から出てきた。そういう中で、米国で、世界の舞台でこうやって戦えるというのはちょっと意味があることかなと思っている」と語っていた。岩手に縁があっても、同県出身という知人は米国に来てから正直少ない。菊池投手の言葉には確かな重みを感じた。

その一方で、菊池投手は初対戦に独特な感情があることは認めつつも、注目される状況に慣れる必要性を強調していた。なによりも、「個人的な勝負を楽しめる余裕は正直まだなく、毎試合毎試合必死に投げているというところ」と大リーグ1年目の素直な心境を明かしていた。

結果を見ると、5月30日の菊池投手の登板日に大谷選手が起用されず、シアトルでの対戦を見ることはできなかった。両者の対戦は9日後、6月8日のカリフォルニア州アナハイムが舞台となった。大リーグの先輩にあたる後輩・大谷選手が菊池投手から本塁打。好調時にあった大谷選手はその後、ロサンゼルス・ドジャースの前田健太投手からも本塁打を打ち、13日にはサイクル安打も達成する活躍ぶりだった。一方の菊池投手はその後、長い不振のトンネルに苦しんだが、何とか持ち直して23日の登板で約1カ月ぶりの白星をつかんだ。

同郷による大リーグ初対戦という周囲の喧騒はひとまず落ち着いたが、7月には間を開けずにシアトル、アナハイムで6試合が予定される。今季最後の対戦シリーズとなるが、同地区チームによる試合は来季以降も当然のように組まれていく。

「楽しみにしてくれているというのはモチベーションにもなるし、いい勝負をこれからも長くやっていきたい。そのために僕もレベルアップしたいと思っている」

28歳に24歳と若い2選手。岩手が生んだ大リーグ選手が名勝負を紡ぐ姿を楽しみにしたい。

(佐々木 志峰)

オレゴン大学でジャーナリズムを学んだ後、2005年に北米報知入社。2010年から2017年にかけて北米報知編集長を務める。現在も北米報知へ「一石」執筆を続ける。