Home 食・旅・カルチャー 地球からの贈りもの~宝石物語~ 新時代のダイヤモンド

新時代のダイヤモンド

2020年の大統領選に向けた民主党の候補者選びが始まった。候補者らがか掲げる政策で注目されるのが、超大企業や超富裕層への課税などの経済格差対策だろう。シアトル市でも、広がる経済格差に対応して年収25万ドルを超える超富裕層への特別課税が議論されている。何かしらの対策がなければ、一部の超富裕層や超大企業が富を独占していく流れがあることは、否めないように思う。

ダイヤモンド業界も、長い独占市場の歴史がある。産業革命時代より、約1世紀に渡りダイヤモンドの供給をほぼ独占してきたのがデビアス社。1902年には世界で流通するダイヤモンドの90%、1998年ですら70%弱を供給していた。

前回でも触れたシンセティック(合成)ダイヤモンド。いよいよ大量生産が始まり本格的にダイヤモンド市場に参入してきたのだが、その動きの筆頭にあるのがデビアス社だ。デビアス社は、ライトボックスというシンセティック・ダイヤモンド専用のオンラインストアを2017年に立ち上げた。ダイヤモンドの価格は固定していて、1カラット800ドル、0.5カラット400ドル。無色透明、水色、ピンクの3色があり、すべて価格は同じだ。ジュエリーの枠部分は、 10Kのホワイト・ゴールド、イエロー・ゴールド、シルバーを使い、低価格で販売されている。日本ではゴールドは18Kが主流だがアメリカでは14Kが主流。10Kとなると金の含有量は約42%。地金としての価値は低いが、そういったカジュアルな地金で価格を抑えているのも、戦略の1つ。ミレニアル世代をターゲットにしているそうだ。デビアス社は、「ダイヤモンドは永遠に」の宣伝で愛の証としてダイヤモンドのマーケティングをしてきたが、ライトボックスは「自分へのご褒美ジュエリー」との謳い文句でマーケティングしている。デビアス社はエレメント・シックスという生産企業の工場を9500万ドルでオレゴン州に建てている。こちらが完成すれば、2020年から年間5万カラットのシンセティック・ダイヤモンドを生産する予定だそうだ。

デビアス社は1890年のシャーマン・アクトや1914年のクレイトン・アクトに引っかかり、昔から独占禁止法違反だと勧告されてきたが、大きなお咎めを免れて21世紀まで生き延びた。2011年、デビアス社の株式は、2011年に元々45%を所有していたアングロ・アメリカン社へ約51億ドルで売却され、現在は同社の株式はアングロ・アメリカン社が85%、そしてボツワナ共和国が15%を所有する。

そもそも、シンセティック・ダイヤモンドのダイヤモンド市場参入に猛反対していたのがデビアス社だった。ダイヤモンド市場を独占していたのだから、人工とは言えダイヤモンドであることに変わりはないシンセティックの参入は、同社への脅威だったろう。

エレメント・シックスは、1946年には既にデビアス社の子会社として創業されてシンセティック・ダイヤモンドの研究生産をしてきたが、最近までは工業用生産ばかりだった。技術向上により、宝石となりうるレベルにまで品質や大きさも安定して、更に低コスト生産が可能になり、いよいよダイヤモンド市場に参入してきたのだ。いや、もしかしたら宝石レベルのダイヤモンドはかなり前から出来ていたのかもしれない。シンセティック・ダイヤモンドの生産企業が他にも多く出てきたなかで、このタイミングで企業として生き残るための策に出たのかもしれない。シンセティック・ダイヤモンド生産への流れは、紛争地で産出され内戦の財源になることが批判されているコンフリクト・ダイヤモンドなど倫理的問題への対策の一つとして、有効な選択なのかもしれない。

金子倫子
80年代のアメリカに憧れを抱き、18歳で渡米。読んだエッセイに感銘を受け、宝石鑑定士の資格を取得。訳あって帰国し、現在は宝石(鉱物)の知識を生かし半導体や燃料電池などの翻訳・通訳を生業としている。