Home インタビュー 阿部仁史教授 被災地復興へ...

阿部仁史教授 被災地復興へ、建築のアイデア コミュニティー再生のきっかけへ

ワシントン大学日本研究学科による三菱商事講演が13日、14日に行われ、カリフォルニア大学ロサンゼルス校建築学部長の阿部仁史教授が基調講演を行った。出身地で活動を行ってきた仙台が被災。復興への歩みの中で失われたコミュニティー、人のつながりの再生を建設の観点から模索している。講演後の阿部教授に話を聞いてみた。

被災地のコミュニティー再生や形成などに焦点が当てられているのですが、コミュニティーを重視する大きな理由などはあるのでしょうか。

私は、米国と日本、ロサンゼルスと仙台の2つの地域にまたがって活動しています。故郷であり、アトリエもある仙台に帰るたび、被災した親せきや知り合いの様子を見ていると、一番問題なのは建物がなくなったことではなく、むしろ建物を介してできていた色々な人同士のつながりが失われてしまったことです。

人とのつながりというのは、単純に「こんにちは」というつながりだけではなくて、生活を支える仕事や生きがいに関わるつながりもある。

例えばクリーニング屋さんがあるとしたら、震災でつぶされた建物が再建されればまたビジネスが成り立つかというとそうではありません。周りの人たちを顧客としていたコミュニティー(つながり)がなくなってしまっていては成り立たないのです。

地方においては、顔の見えない人たち相手ではなく、むしろ近隣の人付き合いを基本とした生活圏に寄り添って商売が成り立っています。建物というハードを通して、そうした人のつながりの活性化を考えることが、復興にとって大事なことだと思います」

米国でハリケーン・カトリーナが起きた際、復興デザインに協力したと聞きました。カトリーナと東日本大震災の大きな違いは何になりますか。

「カトリーナと震災で似ている点というのは、おそらく社会的に弱い立場の人たちが被災していて、その復興が複雑な様相を呈しているところです。

一番違うところは、やはり規模です。東北の500㌔にわたる沿岸線が全て被災し、その中にいくつもの市町村が広域的に巻き込まれてしまう状況が、この震災の一番の特徴だと思います。過疎や高齢化の問題がすでにある地域が、震災によってさらに状況が深刻になってしまいました。

ここでは、ただ元に戻すだけではだめなのではないでしょうか。神戸のような中心部が被災した場合は、元に戻すということで良いのかもしれません。ところが、すでに経済的、社会的問題を抱えているところが被災してしまうと、未来に向けて戦略を立てて、被災によってダメージを受けたことをプ

スに変えていくようなことをやっていかないといけないと思います。
東北の復興で不安なのは、この点が必ずしも上手くできていないことだと思います。

例えば、津波対策の防潮堤を海岸線に数多く建設しているわけですが、それが本当に東北の未来につながるのかなと考えると、首を傾げたくなります。

あの巨大な構造物の内側にあるのは、漁村です。莫大なお金をかけて海と地域を遮断する壁を作るよりも、新しい漁業のあり方、漁業を中心としたコミュニティーのあり方を考えていくとか、未来に向けて違うお金の掛け方ができるのではないだろうか、 と考えます。

単純に防潮壁を立てれば、災害がなかったことにできるというのは、未来に向けた解決策としては短絡的すぎるように思います。

確かに防潮壁を立てることで、土地の問題が単純化され、地域の復興がわかりやすくなるでしょう。しかし、海岸線にはコンクリートの巨大な壁が並び、人影のない地域になってしまったら、そこに未来があるのでしょうか。

むしろ、海と人々の生活が結ばれるきれいな景色に囲まれ、漁業が新たな産業として活気を持って地域を動かすというような未来が、東北的には描きやすいのではないかとも思います」

コミュニティに再生に尽力される中で、被災地だけでなく他の場所にも活かせるようなアイデアなども生まれるのでしょうか。

「クリエイティブ・オフィスということが最近言われています。グーグルなどという企業では、実は創造的な仕事をするためのコミュニティー形成が大事になっています。部門ごとで効率を追求するのではなく、部門を超えたコミュニケーションを促進することでなにか新しいものを生んでいくというコンセプトです。

東北の復興とクリエイティブ・オフィスは、印象としては対極にあるようですが、コミュニティーの形成というコンセプトでつながっている気がします」

そういったコミュニティーの形成をするために建築家として重要だと思う点は何でしょうか。

「『おはよう』とか『こんにちは』というあいさつを強要することはできません。しかし建築家として、色々な人たちがお互いを感じられるような空間や、異なる背景を持つ人たちが自然に集まり、交流が生まれ、そこから何か新しいものが創造されるような場所をデザインすることで、コミュニティーの生まれるきっかけを作り出せると思います」

(記事・写真 = 白波瀬 大海)

北米報知は、ワシントン州シアトルで英語及び日本語で地元シアトルの時事ニュースや日系コミュニティーの話題を発信する新聞。1902年に創刊した「北米時事 (North American Times)」を前身とし、第二次世界大戦後に強制収容から引き上げた日系アメリカ人によって「北米報知(North American Post)」として再刊された。現存する邦字新聞として北米最古の歴史を誇る。1950年以前の記事は、ワシントン大学と北米報知財団との共同プロジェクトからデジタル化され、デジタル・アーカイブとして閲覧が可能(https://content.lib.washington.edu/nikkeiweb/index.html)。