Home コラム 一石 1年前と比較

1年前と比較

 1年前に書いた「一石」をふと見直してみた。「ワクチン接種」——。相当昔のように感じていた新型コロナウイルスの1度目のワクチン接種について書いていた。接種当日の実体験を振り返り、「晴天の1日と共に、社会が大きく蘇る感覚を覚えずにいられない」。気持ちの良い晴れ晴れとした日だったと確かに記憶している。

 約1年後。同じ時期の空を見上げると大違い。青空は遠く、頭上は雨模様。「天気雨」とは思えぬ大雨。ひょうも降り注ぐ魔訶不思議な天候が続いた。

 米国各地も同様のようだ。執筆数日前にあった短期出張では、行きの飛行機で窓から鉛色の雲が見え、至る所で雷が発生していた。乱気流で飛行機は大揺れ。朝食時に見たテレビのニュースは天候の話題がしめていた。帰りの飛行機はさらに揺れた。

 さて、前記の「ワクチン接種」の次は5月のアジア太平洋系ヘリテージ月間についてだった。昨年問題視されたアジア系住民へのヘイトクライムについても触れている。

 シアトル市は最近、シアトル大学が進めた公共安全調査を発表した。2015年に始まった調査で、犯罪に対する恐怖度数を0から100の間で数値化している。2021年については調査開始以来で最も低い数値となる43・1が示された。

 これまで最も低かったのは16年の44。その後18年に最高の49を付けてから徐々に下げに転じていた。犯罪件数を見れば増加傾向にあり、昨年は4万4773件がシアトル警察に報告されている。前年比で10%増。決して治安が良くなったとは言えないが、総じて犯罪に対する恐怖心は下がっている。近隣における連帯意識の高まり、コミュニティーのつながりの強化も要因のひとつとされているようだ。

 調査は2021年10月から11月に実施された。夏に急増した新型コロナウイルスの感染が落ち着き、社会が動き出したタイミング。その時と現在の状況は異なるだろうか。犯罪報告の知らせが携帯に届く頻度も増えてきた感がある。

 重い気分になりかけふと窓に目を向けると、数時間前から一転してきれいな青空が広がっていた。1年前に持った明るい気持ちを改めて思い返した。

     (佐々木 志峰)

佐々木志峰
オレゴン大学でジャーナリズムを学んだ後、2005年に北米報知入社。2010年から2017年にかけて北米報知編集長を務める。現在も北米報知へ「一石」執筆を続ける。