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ライジングサンダー 雷神

陸、海、空の米軍基地があるピュージェット湾地域。軍とのつながりは当地日系社会の特徴の1つにもなっている。近年は在日基地で赴任経験のある関係者が総領事館公邸に招待され、日系社会との交流を深めている。
毎年8月から9月にかけてヤキマ郊外の演習場で行われる、米陸軍と日本の陸上自衛隊による合同訓練「ライジングサンダー」は、今年も無事終えたようだ。米軍の発表によると、同所を舞台とする合同訓練は24回目を迎えた。
合同訓練だが、言語の壁はもちろん厚い。互いの能力、行動、意図の把握に加え、兵士間における理解の溝を埋めることが目的の1つとなる。過去の取材で聞いた話によると、射撃訓練の後の薬きょうの扱いでも、文化、価値観に基づく考えに違いがあるという。
軍事間の提携は日米同盟の根幹となる。陸上自衛隊が4月に発表した資料によると、米軍との共同訓練は今年12回を予定。そのほかにオーストラリアを交えた3カ国間、他国間における訓練も加わる。東アジアにおける国際緊張が高まりを見せる昨今、同盟関係の深化を通じた対外的戦略にも役立つだろう。
合同訓練期間には毎年、二世復員軍人会(NVC)が中心となり、コミュニティーによる歓迎会が開かれる。日米両軍の幹部を中心に、昼食会では日系社会の歴史や現状に耳を傾けている。
日系関係者によると、今年は合同演習の現場に伺う機会があり、また自衛隊関係者からは二世ベテランの記念碑への訪問希望を受けたという。日系墓地が集まるキャピトルヒルのレイクビュー墓地に足を運び、改めて日系史に触れ、その場に建つ日系戦没者記念碑に深い感銘を受けながら献花したと聞いた。交流活動の中心となったアレン・ナカモトさんは「今年もたくさんの友人を作ることができた」と笑みを浮かべる。
ヤキマ合同演習を初めて取材した年、第二次世界大戦の日系人部隊への確かな知識と尊敬をみせる自衛隊広報官に強い印象を覚えた。「ミリタリー」を通じた日米交流は、同盟という両国関係の強化のみならず、地元日系社会にも確かなものを残している。
(佐々木 志峰)

オレゴン大学でジャーナリズムを学んだ後、2005年に北米報知入社。2010年から2017年にかけて北米報知編集長を務める。現在も北米報知へ「一石」執筆を続ける。