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第56回 未来の売上ボックス

あるワクワク系(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を、われわれはそう呼んでいる)のサービス業の社長からのご報告。今回は、同社が提供しているなかの、ご家庭のお掃除サービスに関する実践事例だ。

掃除サービスの作業が終わると、お客さんは予想以上にきれいになったと喜び、その後に「次はいつお願いすればいいかしら」と聞いてくれることが多い。そんなとき、派遣されたスタッフはお客さんごとの使用状況に合わせ、次のサービス時期をアドバイスする。例えば、エアコンクリーニングなら1年から3年後くらい、キッチンや風呂場の水回りなら数ヶ月から1年後くらいといった具合だ。するとお客さんは、また喜んで「その頃に電話するわね」と言ってくれ、スタッフも「また、お願いします」と言って帰って来る。それがずっと続いていた。

しかし、「何かおかしいよね」と、ある日の社内ミーティングで話題になった。お客さんが、「またお願いするわ」と言ってくれているのに、こちらは待っているだけ。その時期に実際に連絡が来ることはほとんどないのだ。

そこで、派遣先でお客さんと次回の作業時期の話ができたら、帰社直後にその情報を記録する仕組みを作った。次のサービス時期に適確に連絡できるよう、ファイリング・ボックスに記録をし、そのボックスを「未来の売上ボックス」と名付けて運用してみたのだった。

そうして3年が経過。現在では、次のサービス時期で連絡したお客さんの成約率はなんと7割。同社では、顧客との関係性を切らさないための他の様々な手立ても用意しているし、そもそも前回のサービス提供時の仕上がりや対応の良さにも左右されるので、すべてがこの仕組みによる受注とは言えない。しかし、現場担当者の話を聞くと、「少なく見ても、成約になったお客さまの半分は電話しなければ注文は来なかったとだろう」とのこと。

この実践からの学びは、リピート売上を的確に得るためのひと工夫だ。そして重要なことは、そのひと工夫に至るきっかけ。それまでずっと続けてきた習慣に対し、「何かおかしい」と思えたことだ。その疑問から解決策が生まれ、それがなければ失い続けていたであろう売上は守られた。「未来の売上ボックス」というネーミングも秀逸だ。そのボックスにファイルされている書類は、単に「書類」ではない。仕組みをきちんと動かせば、未来の売上となるものだ。商売をこのように捉え、これまでの営みにも良い疑問を持ち、具体的な仕組みを作れること。それが今日、売上を失わない力、売上を作り出せる力なのである。

山口大学人文学部卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年オラクルひと・しくみ研究所を設立。「人の心と行動の科学」を基にした独自のビジネス理論を研究・開発し、2000年からは、その実践企業の会を主宰。現在、全都道府県および北米から千数百社が集う。