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第99回「なぜこの商品は売れに売れたのか(後編)」〜招客招福の法則

By 小阪裕司

「なぜこの商品は売れに売れたのか(後編)」

ある牛乳販売店での誤発注の話の後編。誤発注により入荷した1800袋の商品は、顧客の応援により、結果として完売どころか倍の約3500袋が売れた。こういったことが起こる店や会社には、共通した背景がある。同店が日頃から行っていることにもその一端を見ることができる。たとえばそのひとつはコロナ禍でのことだ。世の中全体が暗いムードになっていた頃、同店の顧客も自粛生活の日々に、「疲れた…」「気が滅入る」「いつまで続くのか…」など、どんよりとした気持ちになっていた。そんなとき店主はこう思った。「お客さんに何かしてあげたい! こんなときだからこそ、当社が出来る事があるはず!」。

そこで考えたことは、メッセージカードを添えた、小さなブーケを贈ることだった。そもそも店主自身、大の花好き。テーブルに花があるだけで部屋も心も明るくなる。まさにこういうときにぴったりだと決定。ひとり600円の予算と決め、上位顧客500名に届けると、その日から反響は凄く、電話によるお礼や手紙が殺到した。特に電話では「直接、お礼をしたかったから」という声が多く聞かれた。これはほんの一例だが、同店ではかねてよりこのように、顧客の気持ちに寄り添い、折に触れさまざまなことを行ってきた。

また、顧客とのコミュニケーションは、主に配達時の会話と、毎月のニューズレターで大切にしてきた。配達時の会話に関しては、近年は以前より1配達ルートごとの配達件数を減らし、時間の余裕が生まれるようにして、その分顧客との会話に充てた。とはいえ会えない顧客も多いため、ニューズレターは毎月発行、届け続けてきたことで、最近でも顧客から「毎月楽しみにしています」「牛乳よりも、むしろこれを読みたいので続けています」などの声をいただいている。

普段からこのようなコミュニケーションがあり、その上特別な時には花のプレゼントが。このサービスに顧客は感謝し、愛着や信頼の気持を大きくする。そんな相手から、今回のような「お願い」が届いたとき、あなたならどう感じるだろうか?それこそが今回の結果を生んだ背景であり、同様の結果を生むすべての現場に共通しものだ。

ちなみに店主。今回の「お願い」にご協力いただいた顧客に、まずはご協力のおかげで無事完売(と言うか、倍売れたのだが)したことを伝えた。そしてそのお礼にと、この地域で販売していないお菓子を取り寄せプレゼントしたところ、またまた、「よかった!! 心配だったのよ」「また何かあったら言ってね!」「いつも色々と心遣いをしてもらっているから力になれて良かった!」など多数の嬉しいお言葉をいただいたという。

私は日々会員企業のこのような実例を見聞きし、つくづく思う。商売は人の営みなのである。

山口大学人文学部卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年オラクルひと・しくみ研究所を設立。「人の心と行動の科学」を基にした独自のビジネス理論を研究・開発し、2000年からは、その実践企業の会を主宰。現在、全都道府県および北米から千数百社が集う。