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第32回 「帰って来たサボテンと売れ残った商品2」

前回お伝えした、ある商品を、あと1日で通常の5倍売り切らなければならなくなった話の続き。

ある自社製造販売の食品店主らが、大量に売れ残ったある商品を、大晦日の1日で通常の5倍売り、しかも売り切らなければいけなくなった。そこで、「1個450円を3個で千円」と、お値打ち感を出した上で、「ワクワク系(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を、われわれはそう呼んでいる)で行く!」と決意はしたものの、もう一歩の妙案が出て来ない。そんな30日の夕方、捜索願を出していたサボテンが突然帰って来たところで、「これだ!」と店主らはひらめいた。さて、帰って来たサボテンと売れ残った商品がどう関係するのか。果たして商品は売り切れるのか。

まずはそのサボテンだが、店頭で手をかけ育てていたサボテンが、十一月の終わりに忽然と姿を消し、店頭に捜索願のPOPを貼っていたものの、一カ月間なんの音沙汰もなかった。ところが、その30日の夕方に、数日前にPOPを目にしていた別の店の主人がサボテンを見つけて、当の食品店主のもとへ、戻しに来てくれたのである。

そこで一体何が「これだ!」なのか。

妙案を考えあぐねていた店主に、妹さんはこう言った。「サボテンが帰って来たことに感謝して、街とお客様に恩返しの気持ちで3個千円にする、という考え方はどう?」。一度なくなったサボテンがちゃんと帰って来る、そんな良い街と街の人に感謝し、喜びを分かち合う。恩返しの意味で、自店の自慢商品をお値打ちにし、2016年最後の日に買ってもらい、正月に食べてもらう。この「良い感じ」を共有して。そう、これにより、これから行うことの意味を、「残りそうなものをディスカウントして売る」から、「喜びを分かち合う、喜びのおすそ分け」に置き換えられる。単なる安売りではなく、ワクワクする営みにできる。そう思った店主らは、早速サボテンが帰って来たことと、「恩返しの気持ち」を伝えるPOPを作成。本日に限り3個千円との表記と共に、店頭に大きく貼り出した。

そうして迎えた31日、大晦日が始まると、お客さんの反応は予想以上だった。「よかったねぇ。それじゃ、奇跡にあやかって買って行くか」と多くのお客さんが3個パックを購入。まさに通常の5倍の売れ行きで夕方にはほとんどの在庫がなくなり、残りは、この年お世話になった方々にお礼のお手紙と共に配り、めでたくすべてなくなったのであった。

売上げなどでピンチに立たされた時、どのように考え、行動するか。今回のサボテンのような一見では関係無さそうな物事に、どんなワクワクする意味を見出し、創れるか。あなたはここで、「これだ!」とひらめくことができるだろうか。

(小阪 裕司)

山口大学人文学部卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年オラクルひと・しくみ研究所を設立。「人の心と行動の科学」を基にした独自のビジネス理論を研究・開発し、2000年からは、その実践企業の会を主宰。現在、全都道府県および北米から千数百社が集う。