東京五輪が8日に閉会を迎えた。過去前例のない状況の中で行われた大会の評価は、今後精査されていくだろう。当初思い描かれた行事とならなかったのは確か。印象や賛否も各自で違うだろうが、筆者がその中で感じたものは多様性と伝統こそが持つ力だった。
開会式で大役を担った男子バスケットボールの八村塁選手や女子テニスの大坂なおみ選手に加え、柔道のウルフ・アロン選手や女子バスケットボールでは5人制、3人制の馬瓜(まうり)エブリン、ステファニー姉妹らの活躍。またトランスジェンダーの選手が五輪舞台に立ち、LGBTQの参加選手は約30カ国から前回のリオ大会から3倍となる少なくとも182選手に増え、35競技でメダル獲得があったという。
以前耳にした古典芸能の関係者の話をふと思い出した。伝統が何世紀と生き続けるのは、時代に適応し、変化を続けていく力があるからこそではないか。100年以上続く五輪行事の中でも、その道筋の一端が示されたのだろう。新競技のスケートボードでは日本代表を中心に10代の選手たちが表彰台を独占。サーフィンも加わって、斬新な雰囲気が五輪へ送り込まれた。
女子バスケットボールは体の大きさで劣る相手に対して、長距離シュートを武器に得点を重ねて銀メダル。バスケットボール戦術の流れもあるが、チームとしての特徴を生かした戦いぶりは見事だった。その日本チームが決勝で及ばなかった米国は五輪7連覇の偉業。選手が変わっても王者の力を保つ「伝統」の強さは健在。バード、スチュワート、ロイドと地元ストームの中心選手がチームにいたことは、シアトルにとっても誇りだろう。
米国生活が長いためか、五輪番組の合間に流れた日本紹介に多少なりと引き込まれたこともあった。「五輪効果」として意外な産業が躍進するかもしれない。数年先に見えてくるだろう。24日からは引き続きパラリンピック大会が開幕する。東京は厳しい状況が続くが、長年培ってきた伝統の力で何とか走り切ってほしい。
(佐々木 志峰)