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ビーコンヒル南にある窪田庭園で2年前の夏、炎天下の中で石を黙々と打つ人々の姿があった。2週間後、7フィートになる石垣が建設され、その後日よけの屋根が加わり、庭園の新たな憩いの広場が完成した。1927年に日系移民の故窪田藤太郎氏によって建てられた庭園は、ノースウエストの景観、自然を使い、今でも多くの愛好者が訪れる「知られざる」名所となっている。本紙英語コラムニストのデービッド・ヤマグチさんも日系関係の訪問先のおすすめとして7月21日号に記している。

本紙では今週から、当時の石垣建設プロジェクトに携わった児嶋健太郎さんの連載が始まる。ワークショップに携わった人々を中心に当時の様子を振り返っている。本紙でもワークショップの開始時、完成時と取材で追っていたこともあり、プロジェクト内部や参加者の話を興味深く読ませていただいた。

児嶋さんはグアテマラ出身で幼少時から石に魅力を感じながら育ったという。当地では石業者マレナコス社でマネージャーを務める傍ら、石彫刻の作品も手掛けている。

「石には原始的な、本能的なつながりを感じます。いつもそこにあり、何かアイデンティティーを持っている。石を掘ることは、自分にとって一つの言葉のようなものです」と語る。

石垣プロジェクトを通じ、様々なネットワークが作られた。庭園関係者、日本の石工、ワークショップに参加した米国人。今後も「何がもとでつながるかわからない縁」を大切に日米をつなぐ「架け橋」の一つとなる活動を続けたいという。

新たな橋はすでに作られ始めている。ネットワークをもとに石に携わる関係者を日本から招待、米国での短期研修を実現した。東京造形大学から紹介を受けた関係者が2人、ノースウエスト石彫刻協会(NWSMA)の助成を受け、オレゴン州で現在開催中のシンポジウムに参加しているという。

「石の言葉は万国共通。色々な人同士分かり合える。それがうれしいです」と笑顔で語る。

そんな児嶋さんの人柄も伺える連載は毎週掲載予定。

(佐々木志峰)

オレゴン大学でジャーナリズムを学んだ後、2005年に北米報知入社。2010年から2017年にかけて北米報知編集長を務める。現在も北米報知へ「一石」執筆を続ける。