Home コラム 一石 遠地で見た好例〜一石

遠地で見た好例〜一石

By 佐々木 志峰

米中南部にある街の空港を利用したときのこと。周りを見れば、利用者や従業員にアジア系らしき人の姿はほとんどない。搭乗便も筆者が唯一といえるのではないかと思うほどだった。当地のようなコミュニティーと比較して、当初はそのギャップに驚かされた。最近は慣れてしまったのか、不思議と違和感がない。

そんなところで見たシアトルのニュースに驚きを受けた。9月半ば、シアトル市内インターナショナル・ディストリクト(ID)にあるウィング・ルーク博物館で窓ガラスが割られるなどの被害が発生したという。紛れもないヘイトクライム(憎悪犯罪)によるもので、犯人も取り押さえられた。過去にもアジア系住民に暴行を働いたことがある前科者だという。

シアトル・タイムズ紙によると、新型コロナウイルスの感染拡大によりパンデミックとなった2020年から、キング郡で報告されたアジア系に対する憎悪犯罪は合わせて130件。今年に入っても現時点(9月下旬)で20件になるという。ウィング・ルーク博物館の一件では警察対応の遅さも争点となり、長年IDの治安悪化で指摘されてきた問題も浮き彫りになっている。

憎悪犯罪の一因にもなった新型コロナウイルスは再び感染拡大の勢いを強めている。筆者も先月に体調を崩した。しばらく外出を控えた生活を送り、社会からの分断を味わった。

一方で、前出の街から少し離れた隣州でプロスポーツ関連のイベントがあったときのこと。当地よりはるかに小さな街ながら、そこには毎年日本をはじめ、アジア各国からも選手が顔をそろえる。アジア系の米国選手も多く、合わせれば相当な人数にのぼる。

観戦や応援に訪れる人種の層はその地域の色が出る。アジア系は決して多くない。そんな中でも子どもたちを含めた選手との交流では、人種関係なくコミュニティーの共同体作り上げている。「こっちの方が大事」と笑顔で子どもたちと接する選手も。明るく微笑ましい雰囲気に憎悪を生み出す要素はどこにも感じられなかった。

違和感はなし。遠く離れたアジア色の薄い地で見られた好例のひとつだったと思いたい。

オレゴン大学でジャーナリズムを学んだ後、2005年に北米報知入社。2010年から2017年にかけて北米報知編集長を務める。現在も北米報知へ「一石」執筆を続ける。