Home ニュース ビジネス 「熱中小学校」堀田一芙氏イ...

「熱中小学校」堀田一芙氏インタビュー ~「大人の交流」で地方創生に新風を

Photo Courtesy : Necchu Elementary

山形県高畠町で廃校となった小学校を再利用し、「もう一度7歳の目で世界を」をコンセプトに大人の教育と交流の場として2015年に始動した熱中小学校。現在では、北は北海道十勝から南は宮崎県小林市まで、日本全国で11校を展開する。同プロジェクト創立メンバーで、「用務員」として​教諭リクルートなどを行う堀田一芙氏が、ジャパンフェアのセミナー・ルームで講演を行う。ジャパンフェアを前に、熱中小学校について、そしてシアトル校開校について話を聞いた。

文=室橋美佐

20代から80代までが集まる大人の学校

国語・算数・理科・社会と懐かしい科目が並ぶ時間割。教論陣には、ベンチャー起業家や大手企業取締役から、映画監督、登山家まで、各分野の第一線で活躍する人物が並ぶ。まさに大人のワクワク感をかき立てるプログラムが詰まっているのが熱中小学校だ。「いろいろな大人が集まって交流が生まれ、そこから新しい可能性につながるんです」と堀田氏は説明する。
堀田氏自身も、半年サイクルで全国各地にある学校を生徒としてめぐっている。最近では、IoT向けワイヤレス通信サービスで急成長しているSORACOM(ソラコム)の玉川憲(たまがわ・けん)社長の授業に「熱中」したという。「開校当初、玉川さんは起業直後でした。熱中小学校の教壇に定期的に戻ってくるたびに、彼のベンチャー企業が大きく成長していくわけですから、説得力があります」。玉川社長は成長ビジョンやビジネスの信条を生徒たちと共有し、生徒たちは各々の分野からSORACOMの成長を応援するという、生徒と教論の「大人の学校」ならではの不思議な関係ができていたという。「教壇に立つ側も、専門分野のネットワークから離れて、全くの素人へ解説することで新しい発見ができるんです」。熱中小学校の教論陣は、ボランティアで教壇に立っている。

ヒトに投資する地方創生

熱中小学校の運営資金の大部分は、内閣府からの地方創生関係交付金と、開校する地方行政からの補助金で成り立っている。「今の日本の大きな問題は東京一極集中。地方が人と仕事を取り戻さないといけない」と堀田氏は強調する。同氏が用意した総務省資料によれば、毎年10万人前後が東京圏へ転入しており、そのほとんどが30代以下だ。「就学や就職で若者が地方から東京圏へ来るけれど、結婚をして子どもを育てる年代になっても、生活費は高いし、地方に住む親にも頼れないから、なかなか子どもを産めない。それで日本全体の出生率はどんどん下がるという悪循環になっているんです。若者が地方にとどまる選択肢を持てる状況にしないといけない」。熱中小学校のプロジェクトは、地方に人的交流を呼び込み、人材、仕事、そして街のにぎわいを取り戻すことを真の使命としている。
「これまで地方経済の活性化といえば、企業誘致をしたりビルを建てたりという、いわゆる『箱もの』が主流でした。しかし、私たちが取り組んでいるのはヒトへの投資です」と堀田氏。東京圏と地方、地方間の人的交流を活性化させることで、東京圏に偏りがちな先端技術や起業ノウハウの集積を地方へ送り込み、そこから地方発の新しい創造につなげようというヒト投資だ。最初に開校した山形県高畠校では、生徒同士の「部活動」として、高畠町内の耕作放棄地化したブドウ畑を再生するプロジェクトが始動している。東京大学農学部研究員の西岡一洋氏を教諭として迎え、ドローンや各種センサーなど先端技術を駆使しながらのワイン用ブドウ栽培が生徒主導で行われている。授業後に生徒と教諭が地元の酒を飲み交わしながら湧き上がったプロジェクトで、地元産ワインの生産が当面の目標だ。「誰かが何かを始めたいとなったら、その分野で経験を持つ人材を送り込むことができるシステムが熱中小学校で出来上がっています。まだ開校から3年で、ビジネスとして成り立つものになるかは未知ですが、いろいろな芽は出てきています」と、堀田氏は説明する。

シアトル校開校へ向けて

なんと、そんな熱中小学校がシアトル校開校に向けて動き出している。堀田氏の友人でシアトル在住の保坂隆太 (ほさか・りゅうた)氏が、 堀田氏へシアトル開校をアプローチしてきた。 シアトル校開校にあたっては、学校運営を担う非営利団体の立ち上げに向かって進んでいる。「ハイテク分野で急成長するシアトルで開校するとなると、日本の教論陣や生徒のモチベーションも上がります」と堀田氏。熱中小学校では、一つの学校に入学すると他校での授業も受けることができるシステムがあり、複数の生徒が集まって他地方の熱中小学校へ「修学旅行」をすることもあるという。「東京を飛び越えて、日本の地方とシアトルとで個人同士のネットワークが広がれば、新しい何かが生まれるかもしれません」

堀田氏は今年71歳。現在も現役サラリーマンとして複数のハイテク企業の顧問や取締役を兼務する中、「熱中小学校が私のライフワークです」と言い切る。「年齢を重ねるほどに、若い人と付き合えるようになるというのが重要なんです」という堀田氏に、インタビューをする間にも同氏の肩書や年齢を忘れてしまうような、さっぱりとした人柄が感じられる。横浜在住で、かつて横浜・シアトル間を航海していた氷川丸が係留する山下公園にほど近い場所に住んでいるという。堀田氏のエネルギーと熱中小学校が、シアトルの日系コミュニティーにも新しい風を呼び込むかもしれない。シアトル校開校は2019年を予定している。

日本全国で11校を展開している熱中小学校。教諭陣リクルートなどの本部機能を堀田氏が代表を務めるオフィス・コロボックスが担い、学校運営は各地の非営利団体に委ねられている。校舎は、廃校跡地など使われなくなった建物を改築して使用する。カリキュラムは3年間で修了になる。

 

堀田一芙(ほった・かずふ)

熱中小学校用務員。1969年慶応義塾大学経済学部卒業後、日本アイ・ビー・エム入社。PC販売事業部長、ソフトウェア事業部長、ゼネラルシステム事業部長など常務取締役として歴任。1976年インディアナ大学MBA取得。2007年に59歳で日本アイ・ビー・エムを退社した後は、多くのハイテク企業で顧問や取締役を務め、現在は内田洋行顧問、サイバネットシステム取締役などを兼務。2011年の震災を機にオフィス・コロボックルを開設して熱中小学校を含む地方創生プロジェクトを支援している。

この記事を英語で読む:Read This article in English

Interview with Kazufu Hotta of Necchu Elementary School ~ Bringing the vitality of adult interactions to Japan’s hinterlands

北米報知社ゼネラル・マネジャー兼北米報知編集長。上智大学経済学部卒業後、ハイテク関連企業の国際マーケティング職を経て2005年からシアトル在住。2016年にワシントン大学都市計画修士を取得し、2017年から現職。シアトルの都市問題や日系・アジア系アメリカ人コミュニティーの話題を中心に執筆。