シアトル港湾局では橋渡し役に
シアトル港湾局でのカーリンさんの仕事は、国際ビジネスの司令官だ。社外関係部門に所属し、ビジネスのサポートをしている。シアトル港湾局の事業は実に多岐にわたり、中でもシアトル国際空港の所有・運営と、貨物ターミナルでの海港ビジネスは規模が大きい。3年前からはタコマ港湾局と提携し、「ノースウエスト・シーポート連合」として海港ビジネスを共同で手がけるようになった。北米第4位の規模の玄関口となり、貨物の運搬に利用されている。シアトル国際空港も、北米で8番目に利用されている大きな空港だ。空港・海港に加え、クルーズ・ビジネスも拡大を続けており、利用客は年間100万人以上に及ぶ。現在、クルーズ用ターミナルは3つを擁するが、4つ目の追加を検討中だ。また、漁港ターミナルの管理も大切な仕事。このターミナルには、アラスカまで運航するノース・パシフィック漁船団が停泊する。全米の漁獲量の大半を占め、多大な貢献をしている大型船である。レジャー用小型ボートの港も多数所有・運営している。
これだけ多様なシアトル港湾局の業務をサポートするのが、カーリンさんの役目だ。国際代表団の訪問や外部からの問い合わせに対応したり、理事や役員が海外出張に出かけるのを手助けしたりと、ありとあらゆる仕事をこなすカーリンさん。そんな多彩な活動の軸になっているのは、「人間」だと話す。「私は人が大好きで、人と人をつなぐのも大好きです。特に国境を越えたつながりを築くことは、お互いにメリットがあると思っています」。シアトルの知名度を高め、国際的なつながりを増やすことは、自分の「天職」だと胸を張る。
ワシントン州は、全米随一の貿易州である。州内の仕事のうち、実に40%が国際貿易と直接的なつながりがある。カスケード山脈の西側ではさまざまな企業がかかわる総合的ビジネス、東側では農業ビジネスが動く。どちらの商品・製品も、シアトル港湾局が管理する海港や空港がなければ世に出ることはない。「(貿易戦争を仕掛けるような)連邦政府の情勢は非常に厳しく感じますが、国際貿易がいかに重要かは、ワシントン州、キング郡、シアトル市に住んでいる誰もが知っていること。これからも、海外のパートナーに手を差し伸べ、直接外交を行っていくつもりです」
ワシントン州日米協会理事長として
カーリンさんが中でも力を注ぐのが、国際貿易組織と地域社会の橋渡し役になることだ。その活動には、ボランティアで行っているワシントン州日米協会(JASSW)での理事長職も含まれる。
ワシントン州日米協会は1923年に設立され、3年後に100周年を迎える。日米でアイデアを共有することを目的とし、活動の範囲は政策、ビジネス、文化交流、教育など多岐にわたる。カーリンさんは2018年から理事長を務めているが、今まで女性の理事は片手で数えるほどしかいない。「良いリーダーというのは、引き際を知っている人のことだ」とカーリンさん。「リーダーの座をいつでも引き継げるよう、常に準備はしておきたい。もっと日本人、特に女性、バイリンガル、若い人たちが参加してくれたらと、いろいろ声をかけているところです。最近も、三菱商事の河内利浩さんを理事候補に誘いました」。現在、河内さんと共に、ワシントン州内日本企業・日系企業の団体であるシアトル日本商工会(春秋会)とJASSWとの関係をより深めようと尽力している。カラオケを通じて実現した交流プログラムもある。カーリンさんは「カラオケは関係作りにぴったりなんです」と微笑む。
日本人コミュニティーと日米コミュニティーでは、重なる部分が非常に大きい。2018年に開かれた日米草の根交流サミットでは、150人もの日本人がシアトルを訪れ、ワシントン州の14拠点でホームステイをした。日米草の根交流サミットとは、年に1回、日本とアメリカで交互に開催される約1週間のイベントで、ワシントン州で開催されるのは2018年が初めてだった。このイベントがきっかけで他の日米グループとのコラボレーションも始まっている。カーリンさんは、ほかにもワシントン州中国関係議会、ワシントン州国際貿易議会、グレーター・シアトル・パートナーズなど、国際貿易や国際ビジネスに関するさまざまな組織とつながりを持つ。シアトル市の国際情勢諮問機関の副委員長でもある。「今後も日米の関係性を強めていきたい」とカーリンさんは言い、目を輝かせた。
カーリン・ザーグ・ブラック(Karin Zaugg Black)
キャピトルヒルに育ち、ガーフィールド高校卒業後に交換留学生として1年間、広島に滞在。カリフォルニア州ポモナ・カレッジ、同志社大学で学び、JETプログラムを通じて神戸市で国際関係の仕事を3年間行う。シアトル・神戸姉妹都市協会で議長を18年間務めた後、シアトル港湾局の国際ビジネス司令官に。ワシントン州日米協会(JASSW)理事長としての顔も持つ。
ワシントン州内の日米企業や個人の会員に向け、年末恒例のホリデー・ディナーなど、日米の友好的関係を築くためのイベントを多数開催。日本文化を紹介する学校訪問ボランティア・プログラムなどを実施するJIS(Japan in the Schools)や、反対に日本の小学生にアメリカ文化を紹介するAIS(America in the Schools)などのプロジェクトも展開している。
Japan-America Society of the State of Washington
3010 77th Ave. SE., #102, Mercer Island, WA 98040
☎206-374-0180
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