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イメージ、先入観〜一石

By 佐々木 志峰

5月下旬にしてすでに華氏100度に迫ろうかという灼熱の地で、在住地を何度か尋ねられた。「シアトル」と答えると、その返しは「雨でも大丈夫か」――。6月に入り、当地は最高のシーズンへ。それでも他所では、「シアトル=雨」という認識がやはり強いのだろうか。

仕事現場で片言の日本語で話しかけてきた初老の男性。聞くと、母親が広島県と山口県の境あたりにある小さな街の出身だという。ハワイ出身の日系人。1カ月ほど前にあった出張を思い出し、会話が弾んだ。冬スポーツが好きなようで、友人がイサクアに住んでいた関係もありシアトル近郊のスキー場にも訪れたそうだ。

同郷の友人は当地の四季を存分に楽しみ、そして最後は雨に疲れてハワイに戻ったと笑う。別の友人が東京に住んでいるそうで、新型コロナウイルス感染拡大の直前にスキー旅行で日本を訪れた。「次は北海道に行ってみたい」とのことだった。

東京もお気に入りらしいが、「便利だけれど、隣との距離感が狭く、米国にいると住みにくく感じるかも」――。イメージが合い、お互いにうなずいた。

その出張で配車サービスを利用したときのこと。乗車場所に到着したとの通知が届くと、そこには中国語が並んでいた。頭に「?」が浮かびつつ、車に乗ると中国語が勢いよく飛んできた。

話せないことを伝えると、「でも名前は……」との声。運転手は筆者の下の名前をローマ字で見て、同郷の人間と思ったらしい。「なんだ、違うのか」といった表情。道を伝えるナビゲーションからは中国語が響く。名前を見た上で性別の勘違いは多々あったが、中国人と間違われたのは初めて。興味深い経験だった。

メモリアルデーの祝日。少し足が遠のいてしまったが、二世復員軍人会の記念法要が行われる
一日となる。記念碑の周りには日系の名前を記した墓石が並ぶ。日系移民の歴史が始まって1世紀半。四、五、六世代となるに従い、「日系」の枠組みはすでに姓名では捉えられないほど広がっている。

先入観、イメージの良し悪し。アジア・太平洋諸島系米国人のヘリテージ月間を終える中で、ふと考えた。

オレゴン大学でジャーナリズムを学んだ後、2005年に北米報知入社。2010年から2017年にかけて北米報知編集長を務める。現在も北米報知へ「一石」執筆を続ける。