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第 22 回「なぜこのパーマの売上は13 倍になったのか」

ある美容院からの報告だ。この美容院で最近力を入れているパーマがあった。改善に改善を重ね、ようやく納得のできるメニューが出来上がったが、口頭であれこれお薦めするも利用者が増えず、月間来店客の新メニュー利用率も3%程度だった。

そこで店主は、ダイレクトメール(以下DM)でのPRを考えた。その際、今までお客さんへのカウンセリングのなかでよく耳にした、髪の手入れの悩みや パーマに対しての不安などで、今回の新メニューによって解消できることを列挙し、レターを作成した。さらに今回特別に、期間限定キャンペーンとして価格も2割ほど下げ、DMを出した。すると月初から予約は好調。 店頭でも来店客にこのレターを見せるなど取り組んだ結果、 それまで月間8人ほどだった新メニュー利用者が106人に急増、利用率も34 %と大幅に伸びた。

さてこの事例、成果は画期的だが、実際のレターを見ると、A4の紙に手書きで書かれた素朴なもの。そこには「過去に、パーマがイメージより強すぎた経験がある」「毛先に少しカールが欲しいけど、パーマ料金が高くて諦めてしまう」「自分でコテ巻きするとすぐとれる」といった文章が並び、最後に、このような経験がある方にお薦めのパーマだと結んでいるが、 パーマそのものの説明はない。これらが高いコピーライティング技術によるものかというと、そうでもない。なぜこれがこのような成果を生んだのだろうか? キャンペーン価格が 効いたのだろうか?

商品やサービスの作り手・売り手は、その良さをお客さんに伝えたいがあまり、それらの「特 長」を列挙する癖がある。しかしお客さんが知りたいのはそこではなく、それらを自分が利用すると何が起こるのか、自分の人生がどう変わるのか、つまり「彼らが得られること」 だ。このよくあるギャップを埋めるためには、今回のようなアプローチは効果的だ。

具体的にはこうだ。先ほど、レターにはこのパーマの説明ではない文章が並んでいたと言ったが、それらの文章を受けて、「上記のようなお悩みやご経験が一つでも当てはまる方にオススメ!」の一文が続く。これはつまり、このパーマを利用すると、そこに列挙された悩み が解決しますよと訴求しているのである。そもそも店主が今回列挙した文章を発案したのは、これまで店頭でよく耳にしたお客さんの悩みや不安からだったが、ここがカギだ。 「過去に、パーマがイメージより強すぎた経験がある」方は、その一文を読んで、このサービスが 何であれ、自分のその悩みを解決するものなのだと分かるだろう。お客さんが買いたいものは「サービスそのもの」ではなく、「その結果得られるもの」。マーケティングの古典的 名言に「ドリルを買いに来た人が欲しいのはドリルではなく穴である」というものがあるが、まさにそういうことなのである。

(小阪   裕司)

山口大学人文学部卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年オラクルひと・しくみ研究所を設立。「人の心と行動の科学」を基にした独自のビジネス理論を研究・開発し、2000年からは、その実践企業の会を主宰。現在、全都道府県および北米から千数百社が集う。