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第60回 熊食べました

先日、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員のあるジビエ料理店の店主から、こんな実践のご報告をいただいた。

彼によると、実践会へ報告レポートを送るために売上の商品データをみていたところ、意外なことに気がついた。それは、同店のメニューである「熊のステーキ」が、ステーキ売上でトップレベルになっていたこと。よく出るなと感じてはいたものの、鹿や猪のステーキの2倍以上の価格であるために特別な商品と感じていて、実データを見るまでは、それほど売上に貢献しているとは思っていなかった。

そのことを奥さんに話したところ、彼女がシールを作ってくれた。これがまた秀逸で、それは「熊食べました」のシール。熊を食べた証として、丸形のシールに熊の絵と「熊食べました」の文字をあしらったものだ。これを月の輪熊、ひぐま、穴熊それぞれのステーキを注文してくれたお客さんに渡したところ、大好評。シールをはって写真撮影したり、携帯にシールをはって再来店してくれる方まで現れ、とても嬉しかったと言う。

熊食を食べる。それはわれわれ一般人には大イベントで、記念にシールをもらえればもちろん嬉しい。しかし、これらの料理を普段から出している当人たちには意外とこの特別な体験感が分からないもので、このような点は見過ごしがちになる。そこで今回のような手を打てば、もちろんお客さんの体験価値は高まるし、記憶に粘りやすくなり再来店にもつながるし、口コミにもつながる。こういう実践は、ワクワク系では、業種を問わずよく取り組まれているものだが、あなたのお店や会社には、そういうものはないだろうか。

また今回、店主が特に嬉しかったことは、このシールを奥さんが自ら考え作ってくれたことだった。ワクワク系マーケティング実践会に入会したばかりの頃は、実践の話をしても普通にスルーされていたとのことだが、最近、「いろいろ変わったよね。いいんじゃない」と言われたそうだ。そして彼は、「自分でも変わったなと思う」と言う。実践会に入会してからは、店にいる時間は年間1300時間以上減った。ランチをやめて深夜営業もやめて、休みが多くなった。そうして体の負担が減っているので精神的にもゆとりがでて、「イイ感じに人生の歯車が回り始めた気がします」と話す。もちろん、それを支えているのは好業績と生産性の向上だが、それが可能になったのは、以前と比べ、何を売るべきなのかがわかるようになってきたことだという。

そんな彼のレポートの終わりはこう締めくくられていた。「売上をあげるためにワクワク系に入会しましたが、楽しく豊かな人生のつくりかたを学べました」

小阪 裕司
山口大学人文学部卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年オラクルひと・しくみ研究所を設立。「人の心と行動の科学」を基にした独自のビジネス理論を研究・開発し、2000年からは、その実践企業の会を主宰。現在、全都道府県および北米から千数百社が集う。