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第67回  仕切り版が仕切り版に見えない力

先日、東京都内で飲食店を営んでいるワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)の会員さんからある報告をいただいた。そこには5月以降の様々な取り組みが書かれていて、そこにとても関心を引かれたものがあった。それは、感染拡大防止のために店内に置かれた仕切り板だ。

みなさんもあちこちで目にするであろう、仕切り板。そのほとんどは無色透明のものだ。その真意は、本来なら無い方がよいものであるということで、できるだけ存在しないかのようにしつらえるには、無色透明がよいということになる。しかしこの店のものは違った。仕切り板が黒板なのである。

その仕切り板は、報告書の写真を見ると、カウンターやテーブルの上に並んでおり、隣のお客さんとの仕切り用だが、黒板ゆえ向こう側は見えない。そしてそこに、A4サイズくらいの掲示物が6枚も貼ってある。「他のお客さんとの仕切りととらえるとあまり楽しくならないこの仕切り板を、LINEのお友達登録につながるように考えて展示しました」と店主は報告する。「この仕切り板は評判もよく、順調に会員数ものびております」とあるので、お客さんにも好評、狙い通りにお友達登録数も伸びているようだ。

私がここで着目した点は2つ。先ずは、彼が仕切り板ひとつにも、「他のお客さんとの仕切りととらえるとあまり楽しくならない」と考え、ではどうしたら楽しいものにできるだろうかと考え、実行したことだ。そういう意味では、彼には仕切り板が単なる「仕切る板」には見えていない。それもまた、お客さんに楽しく過ごしてもらうための機会であり、装置なのだ。

次に、その仕切り板を「LINEのお友達登録が増える仕組み」として捉え、ではどうしたらいいかを考え、実行したことだ。ワクワク系では何でも「仕組み化」する。今回で言えば、お客さんが自動的にLINEのお友達登録をしてくれるよう、6枚の掲示物の内容を、読んでもらう順番も含めて考え、設置する。そして、狙い通りに仕組みが稼働している。

ワクワク系では「考えるクセ」をつけ、いつも「いかにお客さんを楽しませるか」を考える。またそれが結果的に顧客増・収益増につながるよう、仕組みも作る。そういう日頃の営みが、今回のようなコロナ禍でも生きている。今回の彼のように、仕切り板が単なる仕切り板に見えない商脳を養うこと。それがコロナの時代を生き抜いていく力となるのである。

小阪 裕司
山口大学人文学部卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年オラクルひと・しくみ研究所を設立。「人の心と行動の科学」を基にした独自のビジネス理論を研究・開発し、2000年からは、その実践企業の会を主宰。現在、全都道府県および北米から千数百社が集う。