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変わらぬ自然

日本は春分の日を迎えた。「自然をたたえ、生物をいつくしむ」祝日という。花見の時期を迎え、桜の名所がにぎわう様子がニュースに取り上げられている。マスク着用とはいえ、当地の現状を考えるとただ驚きだ。

仕事現場では3月初めころから、あいさつで握手を交わすことを控えるようになった。消毒剤が各所に置かれ、押して開けられるドアは肘を使うようになった。会釈など、頭を下げてあいさつとする日本の文化に改めて印象を覚える関係者もいた。

米国は建物でも規模が大きく、家々もある程度離れているため濃厚接触の頻度は低いとも考えた。だが、実際は距離が近い。国際サッカー連盟や日本オリンピック委員会などで要職を務める日本関係者が新型コロナウイルスに感染したとのニュースが流れた際には、欧州訪問時にあいさつとして抱擁や握手などが行われていたことが明かされていた。

人との距離でいえば、都心部は厳しい。現在感染拡大で深刻な事態が起きているニューヨーク市では、1世帯当たりの自家用車の所持率が45パーセントほどという。ニューヨーク市経済開発公社のマップを見ると、マンハッタンの自動車所持率は25%以下が大部分を占めている。同業者の中に免許を持たない関係者がいるとも聞いた。移動手段は公共交通を頼ることになり、感染リスクにも影響するのだろう。

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて日々状況が深刻化する中、東京五輪は延期へ向けて話が進められている。非常事態はみな、どこも同じ。大リーグのある選手は「晴れの日々が我々の前に待ち受けている」「この苦しい時を協力して乗り切っていかなければならない」といった内容のメッセージをソーシャルメディアで発信していた。

当地では先週晴れ間が続いた。近隣では桜が華やかに花を咲かせている。外出を抑えなければならない日々が続くが、周辺の自然は変わらず美しい春の季節の到来を告げている。

「自然をたたえ、生物をいつくしむ」――。当地にやがて訪れる最高の季節を享受できるよう祈るばかりだ。

(佐々木 志峰)

オレゴン大学でジャーナリズムを学んだ後、2005年に北米報知入社。2010年から2017年にかけて北米報知編集長を務める。現在も北米報知へ「一石」執筆を続ける。