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直接の経験

強風であおりを受ける当地で州内に広がりを見せる山火事の被害規模を実感している。

 あっという間に9月を迎える中、華氏80度を超える気温はまだ夏を十分に感じさせる。それでも、筆者の仕事現場といえば、すでに秋はおろか「冬」を迎えている。

 仕事場には異常なほど冷たい風が流れ込む。海風なのだろうが、この寒暖差が体を痛めつける。長袖ジャケットを着て現場に入るが、さらにダウンジャケットが必須だ。日が暮れて気温が下がると防寒着で身を守り、帰宅時には外気の暖かさに体が驚かされる。

 昨今は米国各地でも異常気象に見舞われている。カリフォルニア州ロサンゼルス近郊では先週末に華氏115度を達したという。同業関係者の住むコロラド州デンバー周辺は華氏90度以上を記録した翌日に氷点下近くまで気温を落とし、降雪を記録したという。

 これらの異常さは直接経験すれば、さらに実感が増すだろう。

 新型コロナウイルスの感染拡大で生活スタイルも加速度的に変わる今年、米国社会では様々な問題が喚起され始めている。先月後半にウィスコンシン州でアフリカ系米国人の住民が警官の発砲された一件で、各スポーツリーグは試合を延期して抗議の姿勢を見せた。地元マリナーズは大リーグのチームでもアフリカ系米国人選手が多い。

 延期試合の翌日に登板した菊池雄星投手はこうした米国での社会とスポーツのつながりについて、「ミーティングでも個人個人が思うことをみんなで話し合って、涙を流す選手もいた。僕も日本人として来ているわけで、そこで支えてもらいながらプレーしている。家族として、チームとして何ができるか考えさせられながらやっている」と語る。

 その中で最初に出た言葉が印象に残った。「米国に住まないと分からない、感じることができなかったこと」――。

 他国に比べて建国から歴史が浅い米国とはいえ、土地、文化のみならず、変化を続ける社会の構造は直接触れないと分からないことが多い。オンラインでの仕事機会が増え生活環境も変化する中で、改めて経験して知ることの大切さを感じている。

         (佐々木 志峰)

オレゴン大学でジャーナリズムを学んだ後、2005年に北米報知入社。2010年から2017年にかけて北米報知編集長を務める。現在も北米報知へ「一石」執筆を続ける。