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サステナブルを目指して〜地球からの贈りもの〜宝石物語

サステナブルを目指して

By 金子倫子

何ともタイミングが悪いもので、前回のラボグロウンダイヤモンドの原稿を提出してから程なくして、デビアス社のラボグロウンダイヤに関する新しい方針が打ち出された。フォーブス誌の記事によると、基本的にジュエリー用のラボグロウンダイヤの製造を中止するとのこと。しかし、約1年分のストックはあるようなので、在庫がある当面はジュエリー制作を継続するらしい。ラボグロウンダイヤは3つの施設で製造されていたのだが、それがオレゴン州のポートランドにある約94ミリオン㌦をかけて建てた施設に集約され、産業用としての製造は継続するということだ。

同社がラボグロウンダイヤのジュエリー部門から撤退することによる、社会的インパクトの経緯を見守りたい。

サステナビリティという言葉がすっかり一般的になったが、ラボグロウンダイヤはこの概念に関して、1つの解決策だ。サステナビリティ概念の一角に、3つのR「リサイクル(再資源化)、リデュース(削減)、リユース(再利用)」がある。ラボグロウンダイヤの市場シェアが拡大するということは、天然ダイヤモンド採掘の削減につながる。歴史的に、採掘には多大な環境や人命の犠牲が払われてきたことを考えると、ラボグロウンダイヤはサステナビリティの観点からしたら歓迎されるべきことだ。しかし想定よりも売り上げが伸びず、採掘の縮小が見込めない場合、ほかに何ができるだろうか?

まず、リサイクルやリユースの観点から、すでに採掘されているものを再利用する方法について考えたい。物価の高騰はもちろんジュエリー業界にも及んでいるが、いわゆる贅沢品ということもあり、そこに同情はなく、「高い」と思うなら買わなければ良いでしょ、となる。ただ婚約や結婚を控えた人にしてみたら、この高騰はかなりの痛手だろう。基本的に一生に一度、しかも婚姻の象徴として購入するアイテムであるがゆえ、ある意味必需品としての要素も備えている。

そもそも一般人が宝石などを手にすることが出来るようになったのは、この100年程。それまでは一部の限られた人に与えられた特権で、それらの人が持つジュエリーの中には、先祖代々引き継がれるジュエリーがあったり、婚約指輪にしても、古くからのジュエリーをリフォームしたりするなどして受け継がれてきたというケースが多い。リユースは当然のことだったのだ。

最近でよく知られる例としては、現在がん治療中のキャサリン妃が受け継いだ故ダイアナ妃のサファイアの指輪。亡くなったエリザベス2世の婚約指輪のダイヤモンドは、フィリップ殿下の母のティアラから一部を取ったもの。チャールズ国王の妻であるカミラ妃の大きなエメラルドカットのダイヤモンドは、チャールズ国王の祖母の愛用品であった。英国王室に偏った例ではあるが、この様に世代を通して受け継がれるジュエリーは、サステナブルと言えるだろう。

しかし、和装用の帯留めやかんざしなどを除き、ジュエリーの歴史が浅い日本の一般人は、次世代に受け継ぐほどの宝飾品を持っている人はまだまだ多くなく、中古の宝飾品は、赤の他人が所有していた物の場合が多い。また、オークションがあまり根付いていない日本では、中古の宝飾品は、現金が必要になって質に入れざるを得なかったなど、なんとなくマイナスの印象を持つ人も多いのではないだろうか。

さらに、八百万の神様文化が浸透していて、物にも命が宿ることを前提としている日本人にとって、住まいの賃貸や購入時に事故物件などを避けたいという気持ちがあるように、いわくつきの物は極力避ける傾向にある。過去の所有者や経緯に確証がない場合は、おのずと手が出なくなってしまう。
婚約・結婚指輪などの中古となれば、真っ先に思い浮かぶのは、離婚や婚約破棄。必要が無くなった、縁の切れ目を象徴するようなもの。これから結婚しようとする人が好んで購入するとは考えにくい。

そうなると、中古の婚約指輪などをサステナブルに利用するにはどうすれば良いだろう? 次回はそれを踏まえた、リサイクルやリユースの実践編。