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ダブルスタンダード〜地球からの贈りもの、宝石物語136

東京五輪組織委員会の森喜朗会長の女性軽視発言による辞任。発言内容は捨て置けないものでも、83歳の男性の認識はそんなものかという諦めも。それよりも、83歳の森会長よりも適した人材がいない方が問題かもしれない。

アメリカでは女性初の副大統領が誕生したり、世界でも「女性初の」と前置きの付く立場で活躍する女性が増えており、女性の権利や平等への運動が再熱している。もちろん女性の地位や権利が男性のそれと同様になるように社会が変わらなければならないが、この動きと連動するように、「ダブルスタンダード」という矛盾にも意識を向けなければならないだろう。

以前に、ミキモトがコムデギャルソンとコラボレーションとして、男性向けのパールジュエリーを発表した。その後も新デザインが発表されたりと、男性パールジュエリーは一過性の珍しいものではなく、マイナーな定番として定着していくだろうと、個人的に期待している。かつて王侯貴族は男性でもパールジュエリーを身に着けていたし、そういう歴史を考えれば、どうして現代社会で男性とパールジュエリーがここまで違和感があるのかも不思議と言えば不思議だ。

イギリスの国民的ボーイバンド出身のハリー・スタイルズが、幾度となくパールのネックレスを身に着けてレッドカーペットを歩いた。世界的に著名なデザイナーであるマーク・ジェイコブズは某雑誌のインタビューでパールネックレスへの熱い思いを語った。自身のインスタグラムでも、日々のコーディネイトにパールネックレスを添えた写真をいくつも掲載。マークは雑誌で、「寝ている時とシャワーに入る時以外は身に着けている」とパール愛全開のコメントをしている。

これらの男性パールジュエリーの話を聞いて、もし「男のくせに」と一瞬でも頭をよぎったのであれば、それはダブルスタンダードと言えないだろうか?「女性には平等の権利が無い」と不平を言う事と矛盾していないだろうか?

私が子供の頃は、ピンクは女の子の色だった。それが今では、ピンクのポロシャツを着た小学生男子を見るようになった。男性の永久脱毛やエステも市民権を得て、男性用の基礎化粧品の品揃えの多さには驚く。石鹸で顔を洗ってそのまんまというような男性は、そのうちに過去の遺物になるのかもしれない。それを思う時、男性のパールジュエリーも徐々に浸透して違和感のないものになるかも知れない。

パール以前に男性の着用が一般化したダイヤモンドは、次の次元へ突入している。無色や黄色、そして黒色のダイヤモンドなどはヒップホップアーティストやラッパーなどが80年代の頃より身に着けていたし、今や大粒ダイヤのピンキーリングなども、あまり違和感がない。

そんな中で、他と一線を画すべくピンク・ダイヤモンドを愛するラッパー、リル・ウージー・ヴァートも登場。無色の無数のダイヤモンドに囲まれたピンク・ダイヤモンドのピンキーリングや、無色のダイヤモンド・テニス・ネックレスの中央にピンク、その下に脱着式のピンクのペア型ダイヤが垂れ下がるネックレスまでを披露。しかし、それでも満足できなかったのだろう。何と10カラット強のマーキース型の濃いピンク・ダイヤモンド(推定価格24ミリオンドル)を額の真ん中にピアーシング。ピンク・ダイヤモンドの下から一筋の血が眉間まで垂れていた写真を見たときにはぞっとしたが、医学的に危険なことではないらしい。ピンクダイヤモンドは脱着可能で、クリップで着けるようになっているそうだ。

ハリー・ウィンストンは「女性の肌に直接ダイヤモンドを着けたい」とコメントしたこともあるが、まさか顔にもタトゥーだらけのラッパーがその先駆者になろうとは思ってもみなかっただろう。

需要が上がれば値段も上がるのは市場の常。ダイヤモンドやパールを所望する男性が増えれば、単純に今よりも手が届きにくくなる。平等とダブルスタンダード。まだまだジレンマを抱えそうだ。

80年代のアメリカに憧れを抱き、18歳で渡米。読んだエッセイに感銘を受け、宝石鑑定士の資格を取得。訳あって帰国し、現在は宝石(鉱物)の知識を生かし半導体や燃料電池などの翻訳・通訳を生業としている。