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第65回 営業自粛下でも150%

あるレストラン経営者から、5月に驚くべき報告が届いた。日本では4月に緊急事態宣言が発令され、飲食店へは営業自粛要請がでた。彼も要請に応え一時期休業、他の日も午後8時までの営業だった。それにも関わらず、売上は前年比150%だったというのである。果たして彼は何をやったのか。
私が主宰しているワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)には、コロナ禍での各社の実践報告が続々とよせられており、その数、すでに数百件。同店からの報告ものもそのひとつだが、この店は、おまかせコース料理のみの完全予約制のレストラン。そもそもディナーが勝負の店だ。「予約が取れない店」として名をはせていたのだが、緊急事態宣言以降キャンセルが続々と入り、先々の予約がゼロになった。そのときの心境は、今回いただいたレポートの冒頭部分にこうある。「ここまで減ると、あと何ヶ月間もちこたえられるだろうかと、焦りました」。
しかし彼は動いた。この緊急事態宣言中、当会がほぼ毎日開いていたオンライン・ミーティングに参加し、会員さんの同業者とも意見交換しながら「落ち込んでてもしょうがない、やれることをやろう』と前向きな気持ちになったのだという。そして、10日間ほどじっくり商品を練って、1個3千円、8千円という超高級弁当を開発。主に既存客に向けて販売を開始したところ、この売れ行きが爆発、前年比150%の売上の原動力となったのである。
ところで、この成果のポイントは、高級弁当を作り、売ったことだろうか? 当時、多くの飲食店は、テイクアウトやデリバリーなどで対応していたが、それさえすれば、売上が前年を上回り、5割も伸びるだろうか?

この成果の源は、同店が10日間かけてじっくり練った商品(しかも高額)に、待ってましたとばかり反応してくれる「顧客」がいたことだ。
ワクワク系では「絆顧客」「ファン顧客」と呼ぶが、同店はこれまで地道にそういう顧客を育ててきた。私は、コロナ情勢が色濃くなってきた3月以降、「こういう情勢下では、顧客とのつながりを強化せよ!」と発信し続けているが、今回彼は、弁当を発売するまでの10日間も、SNSや動画などでつながりを強化し、開発過程も共有した。こういうことがすべて生きて、この爆発的な結果となるのである。
店主は言う。今回の結果は、顧客が何を求めているか、この情勢下と自社のリソースでどんな形ならそれを提供できるかを考えたゆえだと。また今回、「助けたいから」購入してくださった方もたくさんいて、ありがたい限りだと。どんなときも、商いに収益をもたらしてくれるのは顧客、そしてそのつながりなのである。

山口大学人文学部卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年オラクルひと・しくみ研究所を設立。「人の心と行動の科学」を基にした独自のビジネス理論を研究・開発し、2000年からは、その実践企業の会を主宰。現在、全都道府県および北米から千数百社が集う。