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日系ブラジル人の活躍

海外各地の日系社会の歴史が長くなるにつれ、日系人たちの活躍の場はそれぞれの母国にとどまらず幅を広げている。

米大リーグのアリゾナ・ダイヤモンドバックスで1年目から活躍する平野佳寿投手(34)を通訳として陰で支えるケルビン・近藤さん(30)もその1人。ブラジルのサンパウロ出身でポルトガル語、英語、日本語、スペイン語を使い、言語面での補佐役としてだけでなく、中南米の選手も多いチーム内のパイプ役として欠かせない存在となっている。

試合前は平野投手のキャッチボールを受け、一緒に走り、外野で球拾いに汗を流す。チームメートが集まれば、持ち前の言語力とコミュニケーション力を生かして和やかな輪を築く。「米国で言葉が通じないストレスは何もない。ほかの選手とのコミュニケーションの懸け橋になってくれている」と、平野投手からの信頼も厚い。

近藤さんは3世。1934年に曾祖父が、まだ2歳だった祖父を連れてブラジルに渡った。当地と変わらず、ブラジル日系社会でも野球が盛んだった歴史があり、近藤さん家族も3代にわたる野球一家という。

16歳で渡米、大学卒業後は数年を日本で過ごした。ダイヤモンドバックスのスカウトとしてブラジルに戻ったが、平野投手の入団後に球団から通訳の依頼を受けて現在に至る。異文化の社会に溶け込む苦労を十分に理解しており、平野投手が不安なく実力を発揮できるように「毎日、どこでもサポートする」。

仕事で中心となる日本語を本格的に使うのは日本滞在以来で約5年ぶり。「忘れた言葉もあった。最初は思い出すために勉強を頑張らないといけない時があった」と当初は不安と苦労があったことを明かす。それでも球団の日本人スタッフや平野投手の協力を得て自信を取り戻し、「毎日勉強して、言葉が戻ってきた。今は全然大丈夫」と笑顔を見せる。

ブラジルの家族はインターネットでダイヤモンドバックスの試合を連日観戦しているという。思わぬ形でブラジルの日系社会でチーム認知度が高まりそうだが、平野投手の活躍を支え、「懸け橋」として活躍する近藤さんの姿も誇らしく映るだろう。

(佐々木 志峰)

オレゴン大学でジャーナリズムを学んだ後、2005年に北米報知入社。2010年から2017年にかけて北米報知編集長を務める。現在も北米報知へ「一石」執筆を続ける。