Home コラム 一石 75年前と今

75年前と今

21日、本紙取材班はキング郡、シアトル市両議会でのデイ・オブ・リメンブランス、また別件行事を取材。その中で同日午前にはシアトル北のモスクでエド・マレー市長による今年度の施政演説が行われた。
トランプ政権と相対する移民政策の取り組みなどを明らかにし、「聖域都市」に対する同政権の対応について明らかにするよう強く訴えた。
またホームレス対策や、黒人社会の向上のために教育面の充実に力を入れる意向を示した。コミュニティーとの連携、信頼を高め、安心した生活を送るための市警システムの整備、人口増や世界有数となった賃貸価格に対応するための低所得者住居の建設を急ぐことなども演説に含まれた。
内容に加え、演説が行われた場所に強い印象を覚えたのも事実。かくも政治と宗教が絡む現状。デイ・オブ・リメンブランスの2月19日とほぼ日にちを同じく、また市議会では関連会議が行われた。宣誓書にはマレー市長の名前も連なっている。
第二次世界大戦の大統領令9066号の発令前、日米開戦後に起きたFBIによる一世移民の大量摘発。開戦前からリストが作られ準備されていたという。当時の様子を18日、テツデン・カシマ名誉教授が講演の中で紹介していた。
カリフォルニア州オークランド出身の同教授の父親は、当時本願寺の住職だった。日本軍の真珠湾攻撃後、コミュニティーのリーダー格だった一世が逮捕されていく中、カシマ教授の父親も逮捕への準備として、自宅でスーツケースをまとめていたという。
カシマ教授の父親は、取り調べの対象とはなったが、その後の司法省管轄の抑留所へ送られることはなかったと話す。シアトル仏教会の市川達也輪番とは状況が異なるようだ。宗教対象として有無なく抑留対象となったのは、神道との関係で金光教関係者だったという。
フランクリン・ルーズベルト大統領が発した大統領令9066号は、第二次世界大戦後のリドレス活動の中での調査で「人種偏見」「戦時ヒステリー」「政治指導者の失政」との評価を受けた。
あれから75年が経ち社会は変わった。だが、どのような形であれ政治行動に「宗教」が持ち出される現状がある。是非はともかく、危惧は募るばかりだ。

(佐々木 志峰)

北米報知は、ワシントン州シアトルで英語及び日本語で地元シアトルの時事ニュースや日系コミュニティーの話題を発信する新聞。1902年に創刊した「北米時事 (North American Times)」を前身とし、第二次世界大戦後に強制収容から引き上げた日系アメリカ人によって「北米報知(North American Post)」として再刊された。現存する邦字新聞として北米最古の歴史を誇る。1950年以前の記事は、ワシントン大学と北米報知財団との共同プロジェクトからデジタル化され、デジタル・アーカイブとして閲覧が可能(https://content.lib.washington.edu/nikkeiweb/index.html)。